Nagi

夜と霧のNagiのレビュー・感想・評価

夜と霧(1955年製作の映画)
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評価はできない。
講義で鑑賞。

静かに風に揺れる草が青々と靡くその地には、罪もなき純粋な何百人の人々の叫びと血が染みついている。風化しつつあるレンガ、空っぽの部屋、雨ざらしの有刺鉄線。今観光客が記念写真を撮っている場所でどんな過去があったのか、アランレネ監督は生々しくその過去を突きつける。
静かなアウシュビッツ収容所の現在の様子と、当時の人々の様子。やせ細り、目を剥き、服を剥がれた人々の叫び声が頭に響く。女性も子供も毒ガスで殺され、皮膚は絵葉書に、髪は絨毯に、そして脂肪は石鹸になった。彼らは人として見つめてさえもらわなかった。なぜなら彼らは罪で殺されたのではない。法で裁かれることなく、虚無と絶望の中で理不尽にも殺されていった。ガス室の堅いコンクリートの天井には人間のものとは思えないような爪痕が残っている。それは数少ない生の爪痕であり、死の跡でもある。ブルトーザーでかき分けられる、マネキンのように白い"物体"。それは紛れもなく死体である。人が物になってしまうことがこんなにも恐ろしいことだなんて。
この映画の特徴として、普遍性を持っているということがある。特定の時期や場所、人の記録ではなくホロコーストの行われた時期の様々な場所や、様々な人の悲劇をコラージュしている。これが意味するものは、ある意味神話的な地獄であるように思える。しかし紛れもなく事実であり、我々人間の歴史である。
人は誰しも心に狂気を秘めている。
我々自身はその残酷な事実に気づき、二度と同じ過ちを繰り返さないよう自らに問い続けるべきである。
Nagi

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