もとまち

フランティックのもとまちのレビュー・感想・評価

フランティック(1988年製作の映画)
4.3
言葉が通じないという不安、知らない場所にいるという不安、いるはずの人がいないという不安......。人間が普遍的に抱くであろう様々な「不安」が、計算しつくされた巧みな演出によって表現されている映画である。
特に奥と手前の空間の使い分け方が絶妙で、黒沢清が絶賛していたシャワーシーンがまさしくそれ。主人公が手前でシャワーを浴びている間に、奥にいた妻とスーツケースが画面から消える。そして、そのまま妻は文字通り消失してしまうのである。シャワーの水滴が画面を覆う演出も相まって、見事に観客の不安を煽るシーンになっている。他にも、電話のベルや金属探知機の音などノイズを多用した演出も見事に効果を上げていた。
主人公はハリソン・フォードなんだけどもただの一般人で、だからこそのモタモタ感がとてもリアル。殴り合いになるかと思いきや一発でノックアウトするし、カーチェイスが始まると思えばすぐに渋滞にぶつかるし。

めちゃくちゃ上質なサスペンス映画として成立しているのに、スーツケースの中に入っていた物の正体だけは超B級なのが笑う。話がデカくなりすぎだろ。
そう考えると、一つのスーツケースにひたすら理不尽に振り回される男を描いた不条理劇なのではないか、とも思えてくる。
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