カラン

おとなのけんかのカランのレビュー・感想・評価

おとなのけんか(2011年製作の映画)
4.0
子供たちの諍いがマンションの窓から見える。その子供のけんかに端を発した大人のけんかの密室劇。監督のロマン・ポランスキーは70年代末にジャック・ニコルソンの邸宅で少女に性的暴行をしたかどで有罪判決を受けて以来、アメリカに行っていない。映画の舞台はニューヨーク。

ということなので、入念に作り込まれたマンションの一室はセットであり、窓にはグリーンバックにして合成したものであるが、気付かない人も多いのではないか。わざわざ買ってきたチューリップ、見せびらかしの画集やYAMAHAのスピーカー、大振りのフローリング、人物の衣服。

先日鑑賞した『ブラック・ウィドウ』(2019)の反対のスタイル。映画が空間的に結束を見せず、シーンが断片化されてしまう一つの要因は、屋内のショットが多いのにスチールや大きなガラスといったクールだが画一的で無機的なイメージを多用しすぎたことであると思う。映画空間が抽象的で、鑑賞者の世界と繋がらないのである。他方で、本作はマンションの一室とエレベーターまでの数メートルの廊下以外は映さないが、その屋内は合成ではめられた窓の外にまで伸びて映画空間を形成している。

おそらくこれができたのはARRIの35mmフィルム用のカメラの効果であろうし、その枯れきった技術が本作にそれがなければおそらく成功しなかった、+αとなっていると思われる。

ジョディ・フォスターはアフリカの惨状を憂慮する作家。芸術を愛しているが、夫への不満を抑圧しており、爆発する。ジョン・C・ライリーはジョディの夫役。金物屋を営み、酒と葉巻を愛し、適当な人間だが、大声でくだを巻く。ケイト・ウィンスレットは上記の夫妻と対立する夫婦で、盛大なゲロを吐く。クリストフ・ヴァルツが夫役で、4人の中でもっとも冷静であるが、人の裏をかこうとする冷笑的で不遜な態度を続ける。一緒に観た嫁は、ケイト・ウィンスレットが一番良かったと。まぁ、確かに。ジョディは文化と芸術を愛するがゆえに、その反対の感情を抑圧している妻の役なので、神経質で、爆発すると酒を飲みながら恨み言を口にする。あまり魅力的でない。

ジョディにゲロ吐いて欲しかった。(^^) また、この映画は4つのポジションしかないのであるが、その4つはそれぞれの夫と妻が占めるのだから、実質的には2種類しかない。ジョディとケイト・ウィスレットが2種類しかない特性を演じ分けるには、役者としてのキャラが被りすぎなのである。こうして、ジョディの魅力が潰れ気味の脚本とキャスティングになってしまっており、ポランスキーの演出もジョディの良さを映画全体の良さに昇華するまでには至っていない。キャスティングはとても難しい。

なお、室内にブックシェルフ型スピーカーを3台視認できる。3chの音源は極めて少ないのに、わざわざ3chをやるマニアは確かに存在するのだが、マニアにしては設置の高さも違うし、スピーカーの周囲の状況もアンバランスなので反射音が歪みをもたらすことになる。そもそも3chマニアはセンターに置くので、窓側を右手に見た場合の背面にある3台目は使っていないとしても、やはり変である。こういう細部を外すと、分かっていない人しか楽しめない映画になるので、損である。



レンタルDVD。55円宅配GEO、20分の17。
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