ボブおじさん

アンタッチャブルのボブおじさんのレビュー・感想・評価

アンタッチャブル(1987年製作の映画)
4.6
「THE UNTOUCHABLES」誰からも買収されない者達のことだ。
1934年、腐敗した暗黒街シカゴ。禁酒法下の当時は警察から政治家まで裏社会とズブズブの関係でいくらでも買収ができた時代。
そんな時代に買収や脅しが一切通じない高潔な組織として旗揚げされたのがエリオット・ネス率いる正直者集団のアンタッチャブルだ‼︎

監督は当時ヒッチコックの後継者とも言われたブライアン・デ・パルマ。その独特なカメラワークと映像美学の中から突如として現れる暴力的な描写は本作の中でも遺憾なく発揮されている。

主演はこの映画の成功により、その後スター街道をひた走ることになる若きケビン・コスナー、彼の右腕であり教官的な立場の警官マローンを演じるのが初代ジェームズ・ボンドとして有名なショーン・コネリー、そして暗黒街のボス 泣く子も黙る悪役中の悪役アル・カポネを演じるのは名優ロバート・デ・ニーロ。これ以上無いという完璧なキャスティング‼︎

射撃の名手新人のアンディ・ガルシアと経理士あがりのチャールズ・マーティン・スミスを加えた最強カルテットで巨悪に立ち向かう語り口は胸踊る。

デ・パルマは過去の巨匠達の作品を非常によく勉強していることで有名だが、この作品でもその研究の成果を発揮している。

目的を達成する為に、仲間を集めていく過程をエピソードと共に描くのは、「七人の侍」や「ナバロンの要塞」でも使われていた手法。
カナダ国境での騎兵隊のシーンは完全にジョン・スタージェスの世界。
手持ちカメラの視点で相手にズンズン迫って行くのはヒッチコック調。
集まった仲間達と数々の犠牲を乗り越えて、ついにカポネを追い込むのは、ジョン・フォード以来のアメリカ正義礼讃主義。
そして、なんと言ってもこの映画で最も有名なオマージュは、ラストのユニオン駅の階段での銃撃シーン。エーゼンシュテインの〝オデッサ階段の虐殺シーン〟に対して最大級のリスペクトを込めたデ・パルマからのラブレター。スローモーションの映像が時を超えてオーバーラップする。

映画を見終えると不思議なほど主役のコスナーの印象が薄いことに気づく。本人よりもむしろ仲間の活躍の方が目立つくらいだ。
一方、デ・ニーロのカポネは冒頭のシーンに象徴されるようにカリスマ性と凶暴性を併せ持つ強烈なインパクトを放つため、善良な財務官で無色透明なネスの存在感はあまりにも希薄に映る。

だが、この対比こそが映画の最大の狙いだ。この超個性と没個性の対決という構図が、最後の大逆転への満足度を高める重要な要素となるのだ。

巨大な絶対悪・狂気のカリスマを善良な正義の役人が倒すことがカタルシスを生むのではないか?

この映画での個人的なお気に入りはマローンを演じたショーン・コネリー。橋の上でネスと出会うシーンでの何気ない会話と眼力で即座に頼りになる男だとわからせる演技は見事だった。彼はこの演技でアカデミー助演男優賞を受賞し、これを機に第二の黄金期を迎える。

そしてこの映画の影の主役と言ってもいいくらいの存在感を見せたのが、アル・カポネを演じたロバート・デ・ニーロ。だが彼がスクリーンに映っていた時間が僅か10分程度だと気づいた時、改めてこの俳優の存在の大きさを実感した。

 
公開時劇場にて鑑賞した映画をDVDにて再視聴。