とうがらし

恐怖の報酬のとうがらしのレビュー・感想・評価

恐怖の報酬(1953年製作の映画)
3.8
脚本の教科書 その3

1953年カンヌ国際映画祭 グランプリ&男優賞 受賞
1953年ベルリン国際映画祭 金熊賞 受賞

ベネズエラの酒場に入り浸る男たち。
移民の彼らに働き口はない。
うだるような蒸し暑い夏の日、何もできない退屈さに苛立って、小競り合いが起こる。
そんな中、油田火災が発生。
急遽、仕事の募集が呼びかけられる。
男たちは、多額の報酬目当てに殺到する。
だが、それは、命と引き換えにしなければいけないほど危険な仕事。
一滴落ちただけでも大爆発する液体。
油田消火のために、トラックで火災現場までニトログリセリンを運ぶというもの。
気後れする男がいるなかで、選ばれし4名の男が、道中のさまざまな困難に直面しながら、恐怖の報酬に挑むという話。

活劇ポイント:トラック輸送
物語ポイント:移民の友情と劣悪な仕事環境
脚本ポイント:ニトログリセリン、車体の重量と構造

当時カンヌの最高賞であるグランプリとベルリンの最高賞の金熊賞を受賞した作品。
今では、インターナショナルプレミア(内情はワールドプレミア優先)規定があるために、他の世界三大映画祭とW受賞することはできないが、当時は出品ルールが多少ゆるかったのだろう。
でも、それに相応しい緊迫感のあるサスペンス映画になっている。

現在では、どんな仕事にも男女平等の機会をと言われているが、実際には女性でなければできない仕事もあるように、男性でなければ、できない過酷な仕事もあるという現実を突き付けてくる。
トラックは男性社会の象徴。
同じフランスのマルグリット・デュラス監督も「トラック」をモチーフに男女の関係を語る文芸映画があるが、決して本作と無縁ではないだろう。

脚本はなんといってもシンプルな構造に尽きる。
ニトログリセリンを爆発させないで目的地まで届けるというもの。
人間とは、恐ろしいもので、どんな状況でも、慣れてくると油断が生まれる。
そんなときが危険信号。
輸送中、劇伴は一切ない。
サスペンス、すなわち、緊張感を持続させる仕掛けが、脚本にちゃんと組み込まれていれば、劇伴に頼る必要もないというわけだ。
前提として退屈を描写するために、序盤30分はほんとに退屈だが、輸送が始まってからはそれを大いに覆す面白さがある。
本作が、後世に与えた影響は大きい。
乗り物パニック系ハリウッド映画の原型がここに集約されている。
もちろん、ハリウッドでのリメイク版もある。
リメイク版は、より緊張感を煽るために、いろいろな要素が加えられている。
エンタメとしてはリメイク版の方がカラーで観やすいかもしれないが、純粋に映画の学びを深めたい場合は、オリジナル版がおすすめ。
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