ボブおじさん

恐怖の報酬のボブおじさんのレビュー・感想・評価

恐怖の報酬(1953年製作の映画)
4.4
アンリ=ジョルジュ・クルーゾーといえば「情婦マノン」や「悪魔のような女」もあるが何と言ってもこの作品だろう。

500km先の油田で起こった火災を消すために、いつ爆発するかわからない大量のニトログリセリンをトラックに積んで運ぶ。ただそれだけのワンアイデアで最高にスリリングな映画が作れるというサスペンスのお手本の様な作品だ。

ニトログリセリンという〝恐怖の対象〟を観客に紹介するかの様に、ほんの一滴を岩の上に垂らしてみせると木っ端微塵に。ニトロという普段馴染みのない物の怖さを世界中に知らしめた映画でもある。

恐怖の舞台は中南米ベネズエラ、4人の荒くれ者たちが、この危険な仕事を請け負う。少しの振動で爆発しかねないニトロを命懸けで火災現場まで運ぶのだが、4人の目的が愛とか正義ではなくシンプルに金というのが潔い。

一攫千金を求めワケ有りの男達が2台のトラックで〝恐怖〟を運ぶ。報酬は運転に対するものではなく、この恐怖に対するものだった。だがその行く手に想像を超える恐るべき難関が待ち構えることを4人は知らない……。

カンヌ国際映画祭グランプリ、ベルリン国際映画祭金熊賞をダブル受賞した歴史的傑作。主演はマリオを演じたイヴ・モンタンだが、相棒ジョー役のシャルル・ヴァネルの名演が緊張感を高めてくれる。

前半は、マリオの日常が描かれ今の視点から見るとやや冗長にも感じるが、ほとんど男しか出てこない映画の中で、僅かな登場時間ながらタンクトップから溢れ出る魅力を振り撒くヴェラ・クルーゾー(監督の妻)に癒される。

だが後半、ひとたびトラックが動き始めてからはハラハラ・ドキドキの連続で一気に引きつける。クルーゾーの演出は大胆かつ繊細で、見せ場となる大きな障害物の合間に細かいショックを連結させる。緊張感を途切れさせずに起伏させるという高度な手法で手に汗握る場面が続く💦

更に延々と続くトラックでの道中は、ニトロや障害物という物理的恐怖に加え、疑心暗鬼な4人の心理的恐怖も追加されるのだ。

改めて観て気づいたのだが、音よりも先に爆風が到着し、巻きタバコの葉が吹っ飛ぶ演出を「オッペンハイマー」の70年も前に使っていたのは驚きだ。

単なるサスペンス映画ではない、前半と後半で覆される人物描写。爆発・衝突・落下と次々に入れ替わる恐怖のバリエーション。2台のトラックの中で対象的に描かれる関係性の崩壊と構築の対比。そして緊張感からの解放されるラスト…。

最近の映画と比べて○○が物足りないと思う人もいるだろうが、この映画が後のサスペンス映画に与えた影響は計り知れない。

ウィリアム・フリードキンによるアメリカ版リメイクも傑作だが、先日見たNetflix配信のフランス版リメイクは、足元にも及ばない。


〈余談ですが〉
マリオ、ジョー、ルイージ、ビンバ命懸けでニトロを運ぶ4人の名前を聞いてアレ?と思った人もいるかもしれない。

マリオとルイージ?もしかしてあの有名なゲームのキャラクターは、この映画から⁈と思うのは早とちりで、関係者によるとゲームとこの映画は無関係とのこと。

確かに姫を救うという崇高な目的があるゲームの主人公が一攫千金を狙った映画の主人公をオマージュしたのでは辻褄が合わないか😅

個人的にはどちらも好きなキャラクターなのだが😊