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恐怖の報酬のSNのレビュー・感想・評価

恐怖の報酬(1953年製作の映画)
4.5
昨今の映画的潮流とは全く逆向きの作品というべきであろうか。アンチ・スピードな映画である。それもそのはず、急加速急停止はイコール、即座に死をもたらすから。
南米の強い太陽に照らされた小さな町(おそらくペルー)。そこには、ヨーロッパからの流れ者や人生の落伍者たちが蓴羹鱸膾の気持ちを秘めながらも、その日暮らしを送っている。ある日、初老のギャング、ジョーがこの街に訪れる。小心者の彼は、同郷(パリ)のマリオとすぐに意気投合するのであった。故郷への帰還を夢見るそんな二人の元に、またとない機会が巡ってくる。アメリカが経営する石油の鉱山が火災に見舞われたのだ。500キロ離れた鉱山の火を消すために考え出されたのは、当時はまだ不安定な劇薬として有名であったニトログリセリン。安定した運用が難しく、わずかな揺れでも突発的な爆発を起こす可能性があったこの液体を運ぶ計画に彼らは乗ることにする。しかし、彼らの目の前に広がるのは、まともに舗装をされてはいない南米の大地と、オンボロのトラクターであった。呼吸を忘れるほどに緊迫した旅路が始まる。
ジョルジュ・アルノーの半自伝的!な小説を、クルーゾーがエンタメに落とし込んだ作品。多くの人が退屈に感じる前半部分の冗長な描写は、後半部のスピードなきスピード感を助長するのに大きく寄与している。特に、このコントラストのおかげで、後半部のフレンチノワール的な固い友情物語はより密なものに思える。また、それを差し引いても、この作品には異性がほとんど登場しない。マリオの恋人を除いては。その恋人さえも、カミオンからぞんざいに振り落とされたように、ただ不幸な結末を用意するだけの存在に成り下がっている。そう、どこまでも男臭く、無骨な作品である。音楽を好まぬイヴモンタンは果たして再びピガールの地を踏むことができるのだろうか。
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