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アニー・ホールのArlecchinoのレビュー・感想・評価

アニー・ホール(1977年製作の映画)
4.6
主人公のアルビー・シンガーは2回の離婚歴を持つ40歳ユダヤ人コメディアン。ちょっと死にとりつかれており、サイコセラピー歴15年。とても東海岸ぽい、くせのある人物像です。本人も言ってますが、カリフォルニアには似合わない感じ笑。でも女性にはそこそこもててます。

冒頭のモノローグでアルビーは
・人生は悲劇に満ちている。しかも短い。
・ここはひどいレストランですごくまずい。しかも量が少ない。
・私は自分を入れてくれるようなクラブには入りたくない。
というアンビヴァレントで示唆に富んだことを語ります。
わかるなあ。という人はこの映画を楽しめると思います。

主人公がカメラに向かって語り始めるところや、マクルーハン本人に似非マクルーハン学者をとっちめさせるところとか、分割画面の別の家族同士が会話するところとか、映画の構図的にとても面白いところがありますが、それは措いておきます。

お話は別れてしまったアニー・ホールとの思い出をアルビーが語るモノローグ、という形式になっています。

前半はアルビーのユダヤ人コンプレックス全開です。店員がウッジュー(Would you?)の代りにジュー(Jew?)っていうんだぜとか、レコード屋が、よりによってワグナー(ナチスご用達の作曲家)を勧めてくるんだぜとか、典型的WASP(普通のメジャーアメリカ人)の友人ロブに愚痴ってます。実際、アメリカではユダヤ人の疎外感って根深いのだと思います。でも最初の妻の「綺麗でインテリでリベラルなユダヤ女性」アリソンとはうまくいかなかった。ほぼ理想的な相手なのに。ここで彼は「私は自分を入れてくれるようなクラブには入りたくないってことかな」と再び独白します。

そんな彼の前に現れた天真爛漫で若いWASPのアニー。なれそめの日にもアルビーは「人前では裸にならないんだ(割礼を見られるから)」なんてユダヤ自虐をかましてる。一方アニーはあっけらかんと「おばあちゃんは大のユダヤ人嫌いなのよ」といってのけます。このあたり、家族の様子の映像などを交え、人種・生い立ちの違いを力を込めて描写しています。この辺まではユダヤ人とWASPの価値観による恋愛のスレ違いのお話なのかな、と思わせます。

それからアニーは知性とウィットに富んだアルビーに惹かれるようになり、二人は恋愛関係になります。アルビーはアニーを自分好みに仕立てようと学費を出して大学に通わせたり、サイコセラピーに通わせたりします。アルビーの知性に劣等感のあったアニーは教育に貪欲です。価値観を共有する二人の楽しい日々は続いたのですが、皮肉にもアニーはアルビーのおかげで成長して、視野が広がってきます。アニーの自立が進んでくると、彼女は行動に干渉するアルビーが段々ウザくなってくる。この辺で、この物語はピグマリオン(ギリシャ神話/マイフェアレディの原作の題名でもある)の構図だということがわかります。女性を理想像にしようと教育したら、智慧のついた女性は彼を見限ってしまうという皮肉な話です。アルビーのしつこいセックスもアニーには重荷です。こうして2人は別れることになります。別れの原因は乗り越えられないユダヤ人の壁ではありませんでした。

アルビーとの恋愛も冷めてアニーは次の恋人トニー・レイシー(ポール・サイモン)とカリフォルニアで付き合い始めます。やっぱりユダヤ人です。アニーは実はユダヤ人のほうが好きなのかも....

題名を決めるときに共同脚本者のマーシャル・ブリックマンが「It Had To Be Jew」(ユダヤ人でなくっちゃダメ)にしよう、って言ってたという話があります。アニーが最初オーディションで歌っていたのが「It Had To Be You」(あなたでなくっちゃ)だったんですね。これにひっかけたダジャレです。ユダヤ人はあれが大きいとの評判もある。ニヤリとしてしまいます。でもそれじゃ受けないでしょうね笑

メインのストーリーは上のようなロマンスですが、ウッディ・アレンお得意の皮肉でナンセンスなギャグは大盛りで、ものすごく笑えます。

大好きなシーンにエビのシーンがあります。ロブスターを茹でる、って時にロブスターが怖いっていってきゃあきゃあ騒いでる。すごく楽しそうにアルビーとアニーで笑いあってる。アルビーはのちに付き合った女性にこれを仕掛けるんですが、女性はいたって冷静に白けてる。なんかそれ面白いの? やっぱりアニーじゃないとだめなんです。

最近「22ジャンプストリート」(2014の映画)で全く同じエビのシーンが出てきて笑いました。まさしく「俺はお前じゃなきゃダメなんだ」というシーンです。オマージュですね。

あと、若き日のクリストファー・ウォーケンがアニーの弟役で出てくるんですが彼の告白シーンが傑作です。雨中のドライブで相当笑えます。

トリビア: セントラルパークでアルビーが歩行者をいろいろ品定めしているシーンで、彼が「T. カポーティのそっくりコンテスト優勝者」と評した歩行者はT. カポーティ本人だそうです。

ちなみに2015年にアメリカ脚本家組合(WGA)に所属する脚本家の投票によって選ばれた、「笑える脚本(Funniest Screenplay)」のベスト101が発表され、「アニー・ホール」が第1位に輝きました。
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