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探偵事務所5″ 〜5ナンバーで呼ばれる探偵達の物語〜のnemumeのネタバレレビュー・内容・結末

3.0

このレビューはネタバレを含みます

★ネットシネマ版がFilmarksに存在しないので、こちらに記す。

『探偵事務所5 Another Story マクガフィン』(2005)

 1st シーズンと2nd シーズンに分かれているネットシネマ版シリーズ。1st シーズンのvol.18,19で前後編から成るのが、沖縄を舞台にした「マクガフィン」だ。監督は當間早志。

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 5を先頭にする3桁のナンバーを持つ探偵が活躍するシリーズ。沖縄支部で活動する主人公、探偵515を演じるのは沖縄市出身の藤木勇人。探偵ナンバー515の由来は、1972年5月15日の沖縄返還(沖縄の復帰)からか。東京からの失踪女性、妊婦の塚本成子(洞口依子)を捜すよう515のもとに依頼が入る。関係を持った男性から逃げるように沖縄にやってきた彼女は、この地で幼いころの記憶を探していた。洞口は子宮がんの闘病からの復帰第1作。沖縄の新聞「週刊レキオ」のインタビューによると、子供を産めなくなった彼女のために監督が妊婦役を用意したそう。そして、515に借金の返済を求めて付きまとうのが、どこか憎めない悪党の久手堅(津波信一)。津波は沖縄・南城市の出身だ。

 タイトルのマクガフィンとは、アルフレッド・ヒッチコックが広めた技法。物語を進める上で人物の動機づけになるようなもの。そして同時に、代替可能なものでもある。マクガフィンそのものについては深く掘り下げられない。泥棒やスパイが狙う、宝石や書類のようなものを指す。

 ロケは、那覇市、恩納村、沖縄市、金武町、中城村などで撮影された様子。成子の身に断片的なフラッシュバックを起こした日米国旗の飾られたゲートは、金武町のフレンドシップ通りにあるようだ。沖縄の地理には明るくないけれど、これがキャンプ・ハンセンの近くにあるということを後から知り、成子の過去と米軍との関係性に繋がってくるのだと合点した。実在するナイトクラブやホテル、スナックやキャバレーが背景に映っており、他の地域で撮影された場面に比べて、街の空気感が異なる。

 成子のフラッシュバックで、少しずつ核心に迫るヒントが現れる。皇太子、本土復帰の日の土砂降りの雨、スマイルマーク入りの筆箱、1ドル360円、屋良主席が知事になる……。2022年、復帰50周年の日も変わらず雨が降っていた。ところでこのスマイルマーク入りの筆箱、調べてみると確かに当時そういったものを貰ったという証言はちらほら見つかるが、肝心の写真が一向に見つからない。実に気になるところ。

 随所に現れるウチナーグチは聞いていて心地が良い。藤木勇人の醸し出す雰囲気も大らかでのんびりとしていて、カラカラと笑う顔が印象的だ。彼が演じる515が所持しているたばこ型スタンガンやたばこ型携帯電話。これが沖縄で販売されていた「バイオレット」のパッケージになっているなど、細かいところにも味がある。普段は威勢の良い久手堅が軟弱すぎるところや、安谷屋会長と成子を簡単に2人きりにしてしまうところなど、後半にかけてやや話の運びが強引に感じる部分もあった。

 ベトナム戦争の枯葉剤や人体実験。反戦運動や復帰運動。沖縄を縦に貫く歴史は、成子とも無縁ではなかった。彼女は沖縄に来たことがないのではなく、生まれてすぐにこの地で実験施設に入れられていたのだ。そんな彼女は陣痛の最中であるにもかかわらず「海が見たい」と515に頼みこみ、実際に海の中にまで歩を進めていく。

「地球に良いものが生まれました」

 彼女は再び沖縄の地を離れ、じぶんの過去や出自を今度は本人の意思で忘れることにし、生まれてきた「地球に良いもの」を全力で守っていく決意をする。夢だった絵本作家になり、指先から紙の上へ、また新たな命を吹き込みながら。
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