Blue

切腹のBlueのレビュー・感想・評価

切腹(1962年製作の映画)
5.0
個人的オールタイムベストの一本です。また主演の仲代達矢も数多くの映画作品の中で、もし墓場に持っていける作品があるなら、この作品を持っていくと本に書いてありました。

この時代の映画の前提知識としては、多くのスタッフが太平洋戦争に行き、戦い、殺したり、仲間が死んだりしたことを経験してる人達が作っているということです。

監督の小林正樹は終戦後、捕虜として囚われていて、脚本家の橋本忍は戦争中に結核を患い、余命2年と宣告されて前線を離れました。当時入隊していた隊員達はインパール大作戦という、未曾有の狂気に満ちた前線で全滅したとの事です。
また仲代達矢も戦時下で空襲で逃げ惑った際に、連れていた親戚の子供は死んでいて手だけを握りしめていたとの事です。

そんな3人の、スタッフを含めた執念の作品がこの作品です。

国のために死ねと言われて行ったが、あまりに無謀な作戦の中で仲間達は死んでいき、かつ帰ってきたら自分達の受けた教育は全て黒く塗り潰されてなかったことにされていた。

自分は何のために戦い、仲間は何のために死んでいったか。その哀しみと怒りが原動力となり、国とはなにか、人とはなにか、というヒューマニズムを問う映画が作られて、それが勧善懲悪物語しか作っていなかったハリウッドをはじめ映画業界に影響を与えていく事になります。

この切腹という映画はまさにそのヒューマニズムを問う最高傑作の映画だと思います。


侍という特権階級に居座る者達がえらく誇り高く話をするが、実際にはどうなのか、時代劇を通じて鋭く現代批評をしていきます。
若者が自分達の言い分にそぐわなければ死ねと言われ、女性や子供が飢えていても素知らぬ顔でいて、権力の座に居座る。

全編通してゆっくりと重くただただキツい。しかし見たら最後まで目が離せません。この映画の狂ってるところはリアルさを出したいからチャンバラシーンは本物の刀でやってるところ笑。

チャンバラシーンに派手さがないのが唯一の弱点だと思っていたけど、本物の刀を使ってマジの斬り合いをしてるというのは、監督含めて狂ってるとしか言いようがないです笑。

カンヌ映画祭で上映した際に、切腹シーンでは失神する人が数人いて担架で運ばれたという話は有名エピソードです。
特別審査賞を受賞しましたが、構図も左右対称を意識していたり美術的観点でも一級品ですし、音楽も武満徹が担当しており、映像、俳優、音楽、全てにおいて一級品です。

ある意味、見る者を選ぶ作品かも知れません。しかし戦争とは、国とは、人とはなにかという事をここまで描いた作品はないと断言します。

最後にとる行動そのものは宗教だけでなく、国も含めた偶像崇拝に対する行動であるし、国のために死ねと言われて育ったが故に、一緒に死ぬ事ができなかった事に対しての謝罪でもある。

人生を狂わされた者たちが作った最高傑作です。
Blue

Blue