とむ

切腹のとむのレビュー・感想・評価

切腹(1962年製作の映画)
4.9
今まで自分にとってのベスト1映画は岡本喜八監督の『日本のいちばん長い日』だと考えていた。しかし今回映画館で『切腹』を鑑賞したことでそれが更新された。

全編に流れる静けさと緊張感、格調の漂う切れ味鋭い台詞や音楽、仲代達矢や三國連太郎を始めとする名優たちの重厚な演技、武家社会の欺瞞や虚飾をまざまざと浮き彫りにするストーリーなど、その完成度の高さは圧倒的だ。
終盤までは回想を交えた会話劇というシンプルな構成であるにもかかわらず、次々と明らかになる真実に瞠目させられ最後まで引き込まれてしまう。
最後の殺陣に少々冗長さが感じられるのがこの映画の唯一の欠点といえるけれども、それもほんの些事に過ぎない。

私が見た上映回は仲代達矢のトークショーがあり、実は仲代も同席して映画を見ていたということを後から知らされた。
今し方スクリーンで躍動していたその人を間近で見て、声を聞き一緒に作品も鑑賞できたという僥倖。作品そのものの素晴らしさと相まって、深い満足感で映画館を後にする足取りも軽く、ただただ感嘆のため息が漏れるばかりだった。
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