秋

バーレスクの秋のレビュー・感想・評価

バーレスク(2010年製作の映画)
5.0

“ 「キャバレー」「カクテル」以来の名作 ”


「ロサンゼルスまで」
「往復ですか?」
「片道よ」

もうこれだけで、
この映画はすばらしいものだと予感できる。
アリ(クリスティーナ・アギレラ)は、
バーの仕事を辞め、ロサンゼルスへ旅立つ。
これがトム・クルーズなら
スターシップの音楽「Wild again」が流れ、
マイケル・J・フォックスならナイトレンジャー
の音楽「The Secret Of My Success 」
が流れますが、
クリスティーナ・アギレラは自分で
「Something's Got a Hold On Me 」
を歌ってしまう。

ロサンゼルスでは、アリはバックダンサー
の仕事を探しますが見つからない。
すると淫靡な格好でストッキングを直している
黒人のダンサーと目が合ってしまう。
黒人のダンサーが入って行った店は、
ショー・クラブ“ バーレスク ”。
アリは、誘われるように“ バーレスク ”に
入って行き、往年の名歌手、テス(シェール)
の歌や、そこで繰り広げられる淫靡にも
華と力強さがある“ バーレスク ”のショー
に魅せられてしまう。

「アリよ」
「ジャックだ、どこから?」
「アイオワよ」
「ぼくはケンタッキーだ、お隣さんだよろしく」
「ね、誰に媚びればステージに上がれるの?」
「楽屋にいるテスに聞いてごらん」
「ありがとう」
「待って、これがぼくの名刺だ、これを見せて」

アリは、“ バーレスク ”のショーに感動した
と言い、自分もダンサーとして
使ってほしいと頼むが、テスは適当に返事をし、
「また今度ね」と相手にしてくれない。

「ね、あの巨乳よりかは働くわよ」

アリは、いきなりおぼんを持って、
ウエイトレスとして働き始める。

「その子を雇った覚えはないわよ」
「ミス・アイオワは、ぼくが雇ったんだ」

こうしてアリは、AKB48の篠田麻里子の
ように、ダンサーではなく、
ウエイトレスとして、“ バーレスク ”に
関わっていく。


“ ピカレスク・ロマンティシズム ”

映画「カクテル」でのダグラス・コグランと
ブライアン・フラナガンの会話。
「見栄えよく格好つけて、実は酒を
 たくさん入れずに水でうすめてごまかす、
 こうすれば儲けが倍になる」
「そんなのでいいのかい?」
「それがどうした?、俺が飲むんじゃない」

アリは、ウエイトレスとしてバーレスクで
働くが、テスはまったく相手にしてくれない。
が、ある時、ダンサーのひとりが妊娠し、
突然の休暇により、アリが採用される。

「アリはほかの子と動きがあってないわ」
「いや、うますぎて、
 なぜだか目立ってしまうんだ」

アリは、バックダンサーとして採用されるが、
ほかのバックダンサーたちと仲良くない。
「ピザ食べに行く?」と誰かが言い、
「いーね」と誰かが言います。
アリは声をかけられません。
これが悪気があってやっているならば
まだ少しはいいのですが、
悪気なく仲間はずれにされてしまっているので、
アリは寂しさを感じる。

「ひとりなの?」
「ええ」
「・・・、ブラシが古くなってるわ」
「そうね、また買い換えるわ」
「わたしのを貸してあげるわ」
「ありがとう」
「ちょっと貸してみて、──どう?」
「素敵」
「お化粧は、お母さんに習ったの?」
「母はわたしが小さい時に亡くなったの、
 ──これが初レッスン」

アリは、安アパートに強盗に入られ、
貯金を盗まれてしまいまう。
お金も取られ、安アパートも怖くなったアリは、
ゲイのジャックのマンションに転がり込む。

「ゲイじゃなかったの?」
「ああいう店ではおかまの
 メイクの方がうけるんだ、婚約者もいる」
「ごめんなさい、出て行くわ」
「外は大雨だ」
「大丈夫、平気だから!」

大雨の中、出て行くアリを
「行くな、行くところなんてないんだろ!」
とお姫様抱っこでジャックはアリつかまえ、
引越し先が見つかるまでいていいと言った。
そして二人は、女と男も友情でつながり、
楽しさのある共同生活を送ることになる。

なんだこの展開は、お互い意識しないわけがない
と思うも、まあそれでも映画のテンポが楽しく、
雰囲気いいので、どーでもいいと思っていると、
バックダンサーとしてのアリが、
あるトラブルから“ 歌も歌えるダンサー ”
として注目され、深酒と遅刻とサボりを繰り返す
主演ダンサー、ニッキーに代わり人気になる。

が、そうなると、確かにアリ演じる
クリスティーナ・アギレラは魅力的になり、
たんなる友達だったジャックや、バーレスクの
総合演出を担当するショーンが、
変にアリを意識するようになってしまい、
「俺はこの前、アリと一緒にいたぞ」
と小さな、どーでもいい、くっだらないこと
を自慢をしあうようになってしまう。
これが、なに今頃意識してんだ?と笑える。


“ 主演、シェール ”

テス(シェール)は、バーレスクの社長兼歌手。
バーレスクの売りは、往年の大歌手テスの歌と、“ 口パク ”のダンサーたちのショー。
しかし、バーレスクの財務は厳しく、
ショーはそれなりに人気ですが、
借り入れの額が大きく、融資がないと
店を銀行に取り押さえられてしまう危機に。

融資に前向きな常連客、マーカス・ガーバー
(エリック・デイン)は、主演ダンサーの
ニッキー(クリステン・ベル)の彼氏で、
ニッキーは、六本木のホステスのように
深酒と遅刻とサボりを繰り返し、
どうしようもなくテスを悩ませる。
そして、“ 歌も歌えるダンサー ”、
アリの登場でバーレスクは活気づくが、
往年の大歌手、テスの出番がなくなり、
テスは寂しさを感じる。

「テス、君も(出番はないだろうけど)
 テストしとこうか?」
「ええ、お願い」

テス演じるシェールは、映画の中盤まで、
ニッキーの機嫌を取るばかりで、アリが人気が
出てからはアリの機嫌を取るようになり、
まったく魅力がありません。
こんなどーでもいい役、どーでもいいと
思っていますと、テス演じるシェールは、
「You Haven't Seen The Last Of Me」
を歌い、“ 歌だけ ”で魅了する。

Feeling broken Barely holding on
But just there's something so strong Somewhere inside me.
And I am down, but I'll get up again.
わたしは負け犬じゃないわ

I've been brought down to my knees
And I've been pushed right past the point of breaking,
But I can take it. I'll be back - Back on my feet
This is far from over You haven't seen the last of me.
You haven't seen the last of me.

They can Say that I won't stay around
I gonna stand my ground You're not gonna stop me.
You don't know me ,you don't know who I am.
わたしは負け犬じゃないわ

I've been brought down to my knees
And I've been pushed right past the point of breaking,
But I can take it. I'll be back - Back on my feet
This is far from over You haven't seen the last of me.

There will be no better
This is not the end I'm better now
And I'll be standing on top again.
Times are hard but I was built tough. I'm gonna show you all what I'm made of.

I've been brought down to my knees
I've been pushed right past the point of breaking,
But I can take it. I'll be back - Back on my feet This is far from over

I AM FAR FROM OVER
You haven't seen the last of me.

No, no, I'm going nowhere I'm staying right here
Oh, no you won't see my fear I'm not kidding around
Can't stop me. Can't stop me You haven't sseen the last of me
Oh, no - You haven't seen the last of me. You haven't seen the last of me.


(映画館での字幕の訳は、
 「わたしは負け犬じゃないわ」
 という痛々しい訳でした)
80年代だったら、「わたしは傷ついてないわ」
って訳すのだろうなと思っていると、
歌を終えて、家路に駐車場に現れたテスに、
ニッキーが車を横付してくる。

「あのアリって子を追っ払って」
「ニッキー、
 わたしがどれだけ我慢したと思っているの?、
 お酒に遅刻、あなたはどれだけわたしや
 店に迷惑をかけたと思っているの?」
「わたしは脇役なんて嫌よ!」
「ニッキー、ごめんなさい、もう無理よ」
「あなたがまだ結婚していた時、
 ヴィンスと寝たわ!」

その瞬間、テスはキレ、
車からペンチのようなものを取り出し、
ニッキーの車のライトをぶち壊す。
ニッキーはアクセルを踏み、去っていった。
痛々しい歌を聞いた後に、痛々しい物語の展開。
もう涙が出てしまいそうになってしまいう。

そして次には、ニッキーの彼氏の
マーカスが芸能事務所をアリに紹介し、
有頂天で調子に乗ったアリは、
バーレスクからの移籍を考えるようになる。
──が、そこでまた恋の悩み。
借金の問題を抱える痛々しいテスは、アリの
恋の悩みまで対処しなければならなくなる。

「もう無理だな」
「待って!、あなたの口から
 そんな言葉を聞くとは思わなかったわ!、
 あなたは、例え無理でも『やれるさ!』
 って言ってくれると思っていたのに!」


“ 黄金時代のミュージカルを葬り去る名作 ”

かつて「キャバレー」を監督し、
アカデミー賞を受賞した、
ミュージカル史上最大の振付師、
演出家と評されたボブ・フォッシー。
ミュージカルにはミュージカルの魅力があり、
映画ではその伝え方が変わる、と。
ボブ・フォッシーは、ミュージカル・シーンを、
物語のシーン・チェンジの合間を埋めるために
演出し、決して、ミュージカル・シーンを
前面に押し出しませんでした。
しかし、やはりミュージカル出身の映画監督は、
少女時代のミュージック・ビデオのように、
頭の先から脚の先のヒールが映るくらいの遠い
位置から長回しの撮影をしたがります。

が、「バーレスク」の監督の
スティーヴン・アンティンは、
そんなことまったくしない。
岩井俊二やクリストファー・ドイル並みに
カメラを揺らし揺らし、アラン・パーカーの
「エビータ」の五倍以上はぶった切る
MTVの撮影。しかし、その一瞬に映る女優たち
の表情はひとつひとつが魅力的で、
脇役の脇役にまで光り輝く。


そして映画は、栄光でも成功でも勝利でもなく、
また恋の成就でもなく、
そうだろうなと、みーんなで仲直りして終わり、
と最高に気分良く物語は完結する。

「アリ、あなたがニッキーのようになったら
 たたき出すわよ」
「はーい、マダム(*'-^*)b 」
秋