とんき

ユナイテッド93のとんきのレビュー・感想・評価

ユナイテッド93(2006年製作の映画)
4.2
9/11同時多発テロ事件の最中、勇気ある搭乗者達によるもう一つの実話。
当時の生存者はゼロであり、恐らくは電話での会話・証言や回収したフライトレコーダーの音声、レーダーの機影記録を元に再現したのだろう。

「鑑賞していて苦しい」との感想が多いが、その通りと思う。
本作には悪い奴らをやっつけるスーパーヒーローも絶望的な状況を打破するご都合的なツールも存在しない。
あるのは平穏な日常に突如訪れた理不尽のみ。
情報が錯綜する、皆が事実と推論を混同して述べる、担当が不在、戦闘機が別の方向に飛ぶ、事実を受入れられずウォッチャーになる、命令をたらい回しにする組織、困惑するばかりで対応出来ない客室乗務員。
これが現実であり、それ故に強烈なリアリティを観る者に叩きつける。
一人一人の不安定な内面を丁寧に描き、それを俳優陣が迫真の演技で表現していることで、強烈な臨場感で映画を食い入るように観てしまう。
家族、友人、愛する者のために立ち上がってコクピットに乗り込んだ勇気ある搭乗者達に敬意を表したい。

と同時に、犯人達のミッションを遂行する姿も観ていて悲しい気持ちになった。
犯人達が皆若い。命を散らすために英語や操縦を一生懸命覚えたのだろうか。優秀な将来ある若者だったろうに。
君は殉職者だ、天国にいける等と言われたのだろうか。どんな大義名分があっても、死んだら後に残るのは無だけである。

昨今日本でも、電車内での無差別テロや御徒町での連続強盗等が起きており、理不尽は他人事ではなくなっている。
その時に傍観者になるのではなく、女性・子供・お年寄りを守るために犯人の前に立ちはだかる小さなヒーローでありたい。93の搭乗者達のように。
そんな決意を新たにさせる作品です
とんき

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