Omizu

ユナイテッド93のOmizuのレビュー・感想・評価

ユナイテッド93(2006年製作の映画)
5.0
【第79回アカデミー賞 監督賞、編集賞ノミネート】
『ボーン』シリーズや『キャプテン・フィリップス』などの名匠ポール・グリーングラス監督作品。NY批評家協会賞で作品賞、LA批評家協会賞では監督賞を受賞、英国アカデミー賞では監督賞と編集賞を受賞した。アカデミー賞では監督賞と編集賞にノミネートされたが受賞はできなかった。

手に汗握る素晴らしい作品。後半ずっと泣いてた。無名の俳優たち、細部に至るまでリアルに再現したドキュメンタリックな演出が凄い。

911テロでハイジャックされた4機のうち、このユナイテッド航空93便だけは予定されていた目標に到達することなく墜落した。その裏に何があったのかを追っていく。

前半は管制室など外部を中心に、後半は機内を中心にしたその構成がまず見事。終盤に向けて右肩上がりに勢いがついていく。

民間の航空機であるが故にまず異変を察知したのはその航空会社の管制室。そこから軍、政府に伝わっていく。のだが、政府の対応がお粗末すぎる。担当官が誰もいなく、連絡すらつかない。そして最後に示されるが、軍が墜落を知ったのは4分も経ってから。上層部の危機意識の薄さを批判もしている。

後半座席の電話機から家族に伝えるメッセージが本当に悲しかった。なんとか反撃する乗客たちにも心が痛む。

何より、神の存在というのは一つキーになっている。アルカイダの犯人たちが祈る神、そして乗客の大半であるキリスト教徒たちが祈る神、それらは根本的には同じはず。それなのになぜ…というやるせない想いでいっぱいになった。

淡々とした描写が逆に残酷。ポール・グリーングラスの客観的な演出には目を見張るものがある。全員が全員の正義を抱えていて、そのために必死な行動をする。乗客や犯人だけでなく、管制官や軍も同じだ。それだけにあんな悲劇が起こってしまった。

本来はホワイトハウスを狙っていたというユナイテッド93便だが、それは回避された。乗客の必死な抵抗によって。しかしその犠牲を政府は本当に分かっているのか。

シンプルながらこのメッセージは誰もが受け止めなければならないし、映画としても抜群に面白い。文句のつけようがない傑作だと思う。ポール・グリーングラスにハズレなし。
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