薔薇

キューポラのある街の薔薇のレビュー・感想・評価

キューポラのある街(1962年製作の映画)
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浦山桐郎監督。
キューポラが立ち並ぶ鋳造の街、川口を舞台に庶民を描く。

吉永小百合演じる聡明な主人公が生まれた環境に苦しめられながらも立ち上がるというバイタリティ溢れる作品。さらには当時の世相を反映した脚本が一本筋で綺麗な映画だった。

当時の川口市の空気、日本の空気が登場するキャラクター達に色濃く反映されていた。思想が染まった廃れゆく職人の父親や帰国運動の波に飲まれる朝鮮人二世などあらゆる人間が何かしらに苦しめられる。

吉永小百合がそれらの人物に影響を受けていき、最終的には自分と環境との折り合いをつけ未来へと走り去っていく。個人的には彼女と弟とのやりとりが良かった。この強い人間達からは脚本の今村昌平のテイストも見える。

大島渚監督の『愛と希望の街』を思い出した。”鳩”や”町工場”、”進学”など閉鎖感と壁が溢れたテーマを中心に見ると、現代とあまり変わらない日本の姿も見えてくる。しかし大島監督の悲劇観はあまりにも現実的すぎて今作が霞んでしまった。
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