ななし

幸福の黄色いハンカチのななしのレビュー・感想・評価

幸福の黄色いハンカチ(1977年製作の映画)
4.5
DVDのパッケージ(フィルマークスのサムネイルに登録されてるやつ)はちゃめちゃにネタバレなんだけど、いいのだろうか。

ムショ帰りの男・島勇作(高倉健)の初登場シーン、立ち寄った中華料理屋でグラスに注いたビールを一気飲みし、カツ丼としょうゆラーメンにがっつく。たとえこのシーンだけ観たとしても、「あ、ムショ帰りだ」とわかる演出と高倉健の説得力のある演技で、この時点でいい映画であることが直感できる。

島優作、花田鉄也(武田鉄矢)、朱美(桃井かおり)たまたま出会った3人が北海道を旅するうちに、勇作がムショ帰りであることが発覚し、獄中で別れた妻が待つ夕張に赴くというシンプルなストーリーであるものの、やや軽佻浮薄な感のある鉄也と朱美という若者ふたりに対して、優作が高倉健的などっしりした演技で応じるこのバランスがよい。

たとえば中盤、勢いで朱美に手を出そうとした鉄也に対して、おなじ”九州男児”として優作が説教をするシーンなどは、ずーっと気になってた鉄也のダメなところをしっかり指摘してくれて胸がすく。しかしそれが、ラストの”男らしくない”振る舞いをする勇作の行動に対して、鉄矢が意趣返し的なカウンターをすることで背中を押す展開につながる。うまい脚本だ。

この手の映画では前科もちのキャラクターは巻き込まれたとか、誰かをかばったとか、そうじゃなければ運悪く犯罪者になってしまったとか、だいたいは同情できる理由で刑に服していることが多い。しかし、本作ではそれまでに落ち込むのがわかる流れがあったとしても、要は街のチンピラとの喧嘩でカッとなって殺してしまっているので、ちゃんとわるいことしているのもある種、新鮮。

さらにいえば、ムショ帰りであることが発覚するのも、鉄矢と揉めたヤクザを勇作がボコボコにしたことが遠因だが、そのときの車のボンネットに何度も相手の頭を叩きつけるアクションは、まんま勇作が人を殺してしまったときとおなじ動作。そういう意味で、「人は簡単には変われない」というシビアなメッセージをさりげなく込めているともいえるし(そのこと自体には勇作は自覚的)、勇作が妻の光枝(倍賞千恵子)をほんとうの意味で幸せにできるかはここからが本番なのだと思う。頑張れ、九州男児。
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