repulsion

スパイ・ゲームのrepulsionのレビュー・感想・評価

スパイ・ゲーム(2001年製作の映画)
5.0
スパイという特殊な仕事を描いており情報量も多いので一度見ただけではわかりづらい部分もありますが、極上のサスペンスヒューマンドラマです。理想主義の熱血漢的な役をブラピが、冷徹なベテランスパイをロバレが、新旧二大スターが激しくぶつかり合い、葛藤や苦悩、恋愛、現実と理想、 これは今を生きる私達にも身近なテーマ。 舞台はあくまでCIA本部。CIA本部でのブリーフィングのタイムリミット・サスペンスに、回想シーンによる2人の出会い→訓練→実践→決裂がアクション色ゆたかに絡む複雑な構成。トニー・スコットはこれをリズムを変え、画調・色調を変え、音楽・効果を変えて撮り分ける。主人公の時代遅れの凄腕スパイは、ラストまで一歩も外には出ない。自らが育てた弟子の窮地を引退の日に知り、まさかランボーのように一人で敵地に乗り込むこともできまいし、007みたいに味方が捕まったら 対戦車ライフル抱えて敵地に乗り込んでくような 非現実的な映画ではなく、彼は知恵と経験を駆使しポーカーフェイスの頭脳戦にでる。その中で語れる弟子であるブラッドピットが演じるトムビショップは忠実に任務に従うのである。

しかし任務を遂行して終わらないのがこの映画、ビショップは非情な命令に対して「これでいいわけないだろう!」とぶつかりあうのである。 ロバート・レッドフォードが素晴らしい。スターがスターであることの理由を見せつけてくれる。冷戦時代の終わりとともにCIAを去りゆく凄腕スパイ。時代おくれの一匹狼。かれが体現するのはジェームズ・ボンドの対極にある「スパイ」という仕事の薄汚さだ。口を開けば出てくるのは偽り・皮肉・ワイズクラック…。本心を言うことは決してない。普通に演ったらとてつもなく嫌な奴…人間の屑なのである。ところがレッドフォードが演じることによって観客は最初からかれに好意を持ってしまう。もちろんかつて演じた「コンドル」のイメージも二重写しになる。CIA本部の(非人間性を象徴するかのような)ダークスーツの背広組のなかで、1人だけツイードのジャケットにバックスキンの靴。まるで異端児だがそんな事は感じさせない、1960年世代の生き残り。そう、こいつとてアメリカ帝国主義の手先としてさんざ汚いことをしてきたはずなのに(「大統領の陰謀」のイメージが重なって)つい「リベラルな正義の味方」であるかのごとく錯覚してしまうのだ。これぞスター・イメージの偉大さである。 ブラッドは繊細な性格をこの映画で理想主義者であるために、米国万歳な社会正義に順応できない青くささを見事に体現している。そして、ロバートが演じたキャラクターが引退の日に彼の人間としての尊厳に応え、全財産をかけてまで、ひとつのけじめをつける為に、自らに最後の任務を課すのである。 ラスト、CIA本部から全てをやり遂げたかのように出てくるロバート演じるミュアーの表情がたまらない。なぜなら米国帝国主義のもとに汚れ仕事をしてきた、そのすべてを洗い流すように笑い、ポルシェで去りゆく・・・作りこまれた脚本はブラッドのラストにスティングを彷彿とさせる爽快なカタルシスを観るものに与えるだろう。

そしてこの映画の話に説得力がある理由としては現実のロバートとブラッドという役者のキャリアと関係性が重なる稀有な映画でもある。私はリアルタイムでロバートレッドフォードという人を見たのがモンタナの風に抱かれてという作品で彼を知り、それからあらゆる作品でロバートレッドフォードという人を見ると、この映画の中の、数々の任務をこなして来た伝説のCIA工作員という現実のキャリアと重なる。スティングや大統領の陰謀等の傑作で主演を担い、人間の心の機微を丹念に監督として描き数々の映画賞に軌跡を残し、そして若き世代の為にサンダンス映画祭を旗揚げし、ここまでされたらスタート言わざるを得ない。その中にリバーランズスルーイットという作品でブラッドピットを主演に起用したのもまたこの映画の中の話と重なる。独自のスタンスを貫き通し今もなお孤高のスタートして活動を続けている姿はその後のこの映画の主人公、ネイサンミュアーのその後の姿なのかもしれない。大義名分の元に徹底して、米国の帝国主義の元に汚いことをしてきたが引退の日にあの行動を起こしたのは彼に親炙されながらも青臭さをぶつけ、彼によって救い出されたブラッドが演じたトムビショップの人間としての道理は今なお大衆に愛される次の世代のスターの座を渡したのかもしれない。
全編を通して本物の戦う男の姿が描かれたドラマ。 
対訳本を買うとより楽しめます。 
やはり字幕や吹き替えでは知りえない深さが出ている。 
爽快なラストまで引っ張るスリリングな展開は二時間を感じさせません。
、と若干ネタバレを含んでおりますが、長文を読んでいただきありがとうございました。ご鑑賞下さるとなおうれしいです。
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