櫻イミト

聖処女の櫻イミトのレビュー・感想・評価

聖処女(1943年製作の映画)
3.5
19世紀に奇跡を体験しカトリック教会の聖人になった少女の伝記映画。ジェニファー・ジョーンズがアカデミー主演女優賞を受賞。監督は「慕情」(1955)のヘンリー・キング。

1858年、フランスの山村ルルド。貧しい農家の14歳の娘ベルナデッドは村はずれの洞窟で聖女を見る。そしてお告げに従いそこで穴を掘ると泉が湧き出し、その水で村人の病が治るという奇跡が起こる。しかし役人は虚言だとしてベルナデッドを尋問にかける。。。

156分の大作だが、娘の周囲の人々が「奇跡は本当なのか嘘なのか?」と都市伝説を検証するようなシナリオで、興味深く楽しんで観ることが出来た。ヒロインを持てはやすような演出をしていないところにも好感が持てる。ジェニファー・ジョーンズはハマり役で、彼女が演じた愚直な純粋さには胸を打たれた。

モノクロ映像も品よく撮られていてヨーロッパ映画のような雰囲気。どこにでもあるような洞窟の前に徐々に祈りの人々が増え始め聖地と化していく様子に”群衆”の持つ映像的効果を再認識する。終盤になって初めて夜のシーンが用いられ、人々がかざした蝋燭の灯が集まる光景は映像的なクライマックスを創り出し本作を引き締めていた。

奇跡の有無について。本作のキリスト教をはじめ信仰の基本は奇跡を信じることだ。しかし現代日本人の場合は敗戦で宗教が奪われたこともあり大多数が信仰心を持っていない資本主義者であり私もそうだ。これは世界中でも稀なことで自覚しておくべきことである。よって日本と外国とでは本作の捉え方が自ずと違ってくる。個人的には奇跡を信じることが出来ないが、奇跡を信じる人を理解したいと思っている。

ベルイマン監督の”神の不在”作品で気分が落ち込んだ時には、本作を観ればバランスが取れるだろう。

※本作の舞台である「ルルドの泉」は、後に大きな教会が建てられてカトリック最大の巡礼地となっている。またルルドから500km北の修道先、サン・ジルダール修道院の大聖堂には、ベルナデッタ・スビルーのミイラがガラスの棺で安置され巡礼者の祈りの対象になっている。
櫻イミト

櫻イミト