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女が階段を上る時のあのレビュー・感想・評価

女が階段を上る時(1960年製作の映画)
5.0
「そういう時はブランデーでも飲んで寝ちゃうの」ではブランデーが効かなかった時は...?

やっぱり女を歩かせるのが上手い成瀬巳喜男、しかし今度はそれだけじゃなくて「上る」という。上で抑えた分下でどれだけ男達に翻弄され、時に欲情したとしても、必ず上には持ち込まない強さ。しかもあの階段を登る時の速さに圧倒的な強さがありました。ラストで一番速く上り切ったところも本当に素晴らしかったです。

また、無表情の中の機微で色々な感情を作り出す高峰秀子の演技が良すぎました。どんな時も渋い顔で斜め右を見ていますが、森雅之の側で寝転ぶ時の顔と、工業地帯を背景に一人打ち捨てられた時の顔、上げ始めたらきりがないほど豊富なバリエーションがありました。

あとやっぱり成瀬巳喜男は男の扱いも上手いです。「浮雲」でもそうですが、森雅之の悪意はないが、勇気はない、しかし魔性があるという、なんとも罪な雰囲気を本当に上手く処理しているように思います。憎めないクズという感じです。上原謙についても同様です。

さらにここに来て、沢村貞子の良さもちょっと分かってきたような...何というか、肝吸いに入っている三つ葉みたいな良さがありますよね。毒っ気が強そうでいて、圧倒的な諦念の裏にある優しさがあるというか。

あと黛敏郎の音楽もええのぉ...武満徹みたいにたまにとち狂った音楽書いたかと思ったら(悪いとは言ってない)こんなの出してくる感じ、イイ...❤️ 本当銀座の夜のネオンに効いてます。

男についても女についても、紋切型には決してせず、常にその場その場の具体的な物語を語るミッキー流石です。やっぱり黒沢とか溝口よりも成瀬や小津に箸が進むと分かってきた今日この頃。初めて淀川さんと好みが分かれてしまった...
あ