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容疑者Xの献身のcocoのネタバレレビュー・内容・結末

容疑者Xの献身(2008年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

いま公開中の「沈黙のパレード」を観るのに前作コンプリートしときたくて視聴。

なにこの面白い映画。
湯川先生が急に数式書き出さないし、キメ顔で「実に面白い」とか言わないし、BGMにテーマ曲が格好良く響き出したりもせず、ドラマ版より圧倒的地味になってるのにめちゃくちゃ面白い。

堤真一の演技力がすごい。
真相が明かされるまで、途中隠し撮りはじめたあたりは「元旦那よりやばいストーカー男なんじゃ…花岡さん逃げて!!」とまんまと思わされてしまった。話の構成と相俟って、やばいストーカー男にもひたすらに献身的で物静かな男にも見えるから、脳がバグる。
最後連行される際の慟哭が凄まじく、全て台無しになったことへの絶望のなかに、愛する人間が自分を捨て置かないでいてくれたことへの喜びが滲むようで、色々な感情が綯い交ぜになっている様が見事だった。

あと石神自身を含め、人間の感情も織り込み済みのトリックというところが天才のそれだな思った。
追う側のミスリードを誘うトリックはよく見るけど、追われる側の「嘘をつくと多少なりとも動揺して危ない→嘘をつかなくていいようにする」とか「罪を被るにしても全くの無罪だと逃げ出してしまいそう→だから本当に罪を犯す」といった感情のコントロールまで含め完全犯罪を成そうとしているのは、他に類似したものをパッと思いつかない(自分が知らないだけかもしれないけど)。そのあたりが、まさに天才・石神が考えたトリックという感じがしていいなと思う。
そして、そこまでコントロールしたにもかかわらず、最後の最後で花岡さんに手紙を2通『同時に』渡してしまうっていう痛恨のミスをしているところが、石神の人となりをよく表しているようにも思う。
工藤氏に「花岡靖子に近づくな」なんて手紙を送っているあたり、ストーカーとしての実績作りと、工藤氏から花岡さんへ話がいき、花岡さんに自分への恐怖心を抱かせるところまで計算していると思うんだよね。それによって、自分が出頭したあとにストーカー行為を受けていたと躊躇なく言えるように、とまで考えていたと思う。
でも最後、真摯な愛情と感謝をしたためた手紙をあのタイミングで渡してしまうのは、ほんの少しでも自分を省みてほしい気持ちが無意識に滲んだんじゃないかとか、石神自身が自分という人間を、花岡さんが石神を想うよりかなり軽んじて扱っていたんだろうとか、そういうことを思った。じゃなければ、最後の指示をするにしてももう少しやりようはあったように思う。感謝の手紙はなにもかも終わったあとに届くようにしてもいいわけだし。

石神さんは愛する花岡さんのためになんの罪もない人を1人殺しているわけだけど、その酷薄な感じも、普段高校教師をやりながらも生徒に全く心を寄せていない様子とわりと符号するというか、違和感ないというか。

なんか色々書いてしまったけど、上映2時間というごく限られた中で、ゲストキャラなのに石神という人物の描写が克明すぎやしませんか…??
底の底まで描こうとしている感じ。

というふうに、色々と思い巡らせることができるこの劇場版は、とても素晴らしい作品なのでめちゃおすすめです。
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