ひでぞう

コズモポリスのひでぞうのレビュー・感想・評価

コズモポリス(2012年製作の映画)
4.7
これは、凄い映画だ。一見すると、退屈で、何を言いたいのか、何が表現されているのか、理解できない。しかし、この映画は、スーザン・ストレンジの「カジノ資本主義」の行き着く果ての「憂鬱」を見事に捉えている。金利や為替相場の変動を利用して投機や利鞘で巨万の富を獲得する、そのシステムを我が物にしてしまうと、すべてが思いのままで、実感を失い(チップに姿を変えて)、「憂鬱」のなかにいるだけだ(実感がないということは、実体経済が反映されない、現在の世界経済の姿だ)。リムジンの窓の外で何が起きようと、そのなかの「エリック」の心を動かすことはない。抗議の焼身自殺も、「ウォール街占拠運動」も、何ら関係しない。なんとか、心を動かすものを見出そうと「妻」を求めるが、それは果たされない。自らが破産しても、実感はわかない。そして、重要なことは、「エリック」の憂鬱が、ディスプレイでみる「世界」の悲惨な姿に心を動かすことができなくなった「私たち」自身の憂鬱につながっていることであろう。
 かつて、カジノは、「賭けの魅力は贅沢と貧困の両方を味わえること」と、ジャッキー(ジャンヌ・モロー)(ジャック・ドゥミ監督『天使の入江』1963年より)によって喝破されたように、かつては、ヒリヒリするような実感をともなうものとしてあったが、それから、60年後、「カジノ資本主義」のなかで、私たちは、実感を失い、ここまで来たのだ。
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