ヨウ

アマデウス ディレクターズ・カットのヨウのレビュー・感想・評価

4.5
偉大なる音楽家・モーツァルト、そして彼を並々ならぬ思いで見ていたサリエリの二人の生涯に隠された驚くべき秘話を解き明かす。絢爛豪奢な宮廷。田舎から成り上がって地位を築いた作曲家と突如として現れる天性の才能の持ち主。神の悪戯ともいえる両者の出会いが運命を悲しいほどまでに激変させていく。傲慢で下劣、それでいて天才肌。常人では決して及ぶことのできない圧巻の力量。誰しもを盲目にさせるカリスマの凄味をただ見抜くことだけしか役割がない自らの矮小たる存在。目の前の現実を芯から認めながらもフツフツと噴出する妬みや憎しみを募らせ、後戻りできない方向へと進んでゆく。徐々に露呈する天才へ纏わりつく闇。エスカレートする追い打ち。のっぴきならない苦しい状況の果てに待ち受ける二人の終着点に見事に打ちのめされた。人間という生命体に潜む醜悪性や脆弱性が浮き彫りになるドラマ模様には非の打ち所なぞ存在しない。鎬を削る壮絶な駆け引きの渦中で僅かなりとも聞こえてくる悲しみの音が心に響く。高次的な神の見えざる手を介在させながら起伏に富んだ音楽家の人生を鮮烈に映し出し、天才と凡人の対比を荘重なる調べで奏でる至高の協奏曲である。凡庸なる人々へ向けられたアントニオ・サリエリの含みある教示や、身を滅ぼすまで作曲へ命を捧げたヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの儚く強い生き様は観る者全てに尋常じゃない感銘を与え、心酔に至らせるであろう。特にサリエリの境遇は我々にとっても身に染みて通ずるところがあり、等身大のその葛藤ぶりには感情移入が止まらなくなる。高校の音楽の時間でも触れた作品でもあるが、時を経て再び鑑賞してみると改めて凄い映画であるとつくづく思い知らされた。3時間が秒に感じるほどに没頭してしまう。客観的に考えて歴代オスカー作品賞の中でもTOP10に輝くほど重厚で優れた出来ではないだろうか。後世まで受け継がれて欲しい素晴らしき名作だ。出逢うべくして出逢ったモーツァルトとサリエリの絶妙な絆に胸を馳せたい。
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