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ウォーロード/男たちの誓いのBalthazarのレビュー・感想・評価

3.0

原題の「投名状」とは水滸伝に由来する任侠の義兄弟の杯を交わす誓いのこと。

19世紀の中国。太平天国軍との戦いで1個大隊の兵士を失い自らも瀕死の重傷を負った清の将軍、龐青雲(パン・チンユン=ジェット・リー)。生き永らえたパンは山賊村のリーダーの趙ニ虎(アルフ=アンディ・ラウ)、その養子の姜午陽(ジアン・ウーヤン=金城武)と出会い、一夜をともに過ごした蓮生(リィエン=シュー・ジンレイ)がアルフの妻と知る。
アルフとウーヤンは清軍に入り、3人は義兄弟の契りを結ぶ。「三国志演義」の劉備、関羽、張飛の「桃園の誓い」に模されている。

この映画は、実際の事件をモチーフにしているそうだ。
太平天国と戦い功績をあげた清朝の高官・馬新貽(=この映画でのパン将軍のモデル)は西太后から両江総督に任命されるが、その就任式の閲兵の際に張文祥(=この映画でのウーヤンのモデル)という男に刺殺された。
張文祥はそのまま逮捕され、何も語らないまま処刑された。二人の間柄に何があったのか、事件の真相は今もミステリー。


19世紀、清朝末期。
イギリスとのアヘン戦争(1840年)に敗れた清朝は南京条約によって香港が割譲され、中華思想のプライドはズタズタに引き裂かれ、西洋列強の半植民地扱いとなった。
こうした社会不安を背景に、洪秀全をリーダーとする太平天国の乱(1851~64年)が起きる。
キリスト教に影響された洪秀全は自らを天王と称し、貧しい農民たちを結集させながら50万人の大規模な革命軍を組織、彼らはすべての人々が平等で太平に暮らせるユートピア「太平天国」の建設を目指して戦う。ちょうど、今で言うところのカリフを僭称するイスラム国か。
太平天国軍は1853年に南京を陥とすと自分たちの首都・天京と改めた。イスラム国で言うところのラッカだね。
が、栄枯盛衰、幹部たちの戦死や内紛によって次第に弱体化。
また、清朝もなかなか成果を挙げられない正規軍に代えて民兵が投入され、地方の軍閥(ウォーロード)が結成した湘軍や淮軍、そして英米の外国人傭兵部隊(常勝軍)が太平天国討伐に加わり戦果を誇るように。
そして1864年、太平天国は建国から13年で短い歴史に幕を閉じた。
世界史上最も死者の多い内戦として不名誉なギネス記録を持つ。当時の中国人口は約4億人で、推定2〜5千万人が死亡するという中国の歴史上でも大惨事だった……のだが、150年も経つと風化が進んでしまい、あまり現代では顧みられていないように思う。
余談だが、日本軍による南京大虐殺の証拠とされる遺骨などは、じつは太平天国の乱の時代に殺された人々のものではないか?という疑問も出ているのだ。


中国という国の文化には、とても野蛮な風習があって、特に謀反を起こしたような罪人に対しては非常に残酷な公開処刑が行われた。
「凌遅(りょうち)刑」で、短刀で時間をかけて外科手術のように胸から切り開いて、少しずつ肉片を削いでいくという世にも恐ろしいやりかたで、太平天国軍の捕らえられた捕虜は、みなこの凌遅刑にかけられ、壮絶な苦しみのうちに絶命したという……。
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