ハウエル

夏の庭 The Friendsのハウエルのレビュー・感想・評価

夏の庭 The Friends(1994年製作の映画)
5.0
この映画のノスタルジックでファンタジックな映像美は、汗さえ乾かないジメッとした昨今の日本の夏の暑さよりも、カラッとしていてうだるようでもあり爽やかでもあるひと昔まえの夏の暑さを感じさせる。

湯本香樹実の同名の児童文学を相米慎二監督が見事に映像化した本作は、原作の雰囲気を壊さずに、仲良しの小学生男子3人組の探求心から始まるひと夏の淡くも濃密な体験を丁寧に描いた。

1994年に製作され、奇しくも翌年、大震災に見舞われる神戸が舞台となっている。


「死」に対して興味を抱いた3人の小学生が、近所に住む喜八と言う名のおじいさんが死ぬのを観察する事にする。
やがて観察されている事に気付き、最初こそ小学生たちを邪険にあつかう喜八であったが、ゴミ出しを手伝ったり、洗濯物を干すのを手伝う小学生たちを喜八も受け入れて、やがて4人は打ち解けあっていく…。

3人の仲良し小学生の男の子達は、オーディションで選ばれた演技未経験の素人子役。

未経験なので、3人とも台詞の言い回しにどこか素人臭さはある。
だが、相米監督の演技指導の賜物か、素人臭くはあるが、“芝居臭く”はないのだ。

それが、喜八を演じる今は亡き名優,三國連太郎の深くて奥行きのある名演と合わさると、不思議な事に妙なリアリティー(現実味)が生まれる。

それは、相米監督の映画監督としての確かな実力の為せる技か、三國連太郎の堂々たる名演と子役たちの純朴な演技の融合によるものかどうかは定かではないが、むしろそれら3つが1つに合わさったからこそのリアリティーだったのだと私は思う。

映画と言うフィクションの中に、老人の孤独死と言う現実問題を取り入れ、彼らのあたたかくもせつないひと夏の心の交流を、ノスタルジックでファンタジックな映像で見事包み込んで描いてみせた相米慎二監督は、本作を撮ってから7年後の2001年にこの世を去った。

三國連太郎と。劇中でもう一人のキーパーソンを演じる淡島千景ももうこの世には居ないが、毎年夏になると冷たいスイカと麦茶とともに観るこの映画の中で彼らはずっと生き続けているのだなぁ…と思う。

今年もまた夏が来て、去って行く…。
ハウエル

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