かたゆき

ナイトメアー・ビフォア・クリスマスのかたゆきのレビュー・感想・評価

5.0
今年もクリスマスが近付いています。
色とりどりの綺麗なネオンをまとい、賑やかなクリスマスソングが彩る夜の街並みを一人で歩いていると、毎年のようにこの作品のことを思い出してしまいます。
無垢な心を持った天才、ティム・バートンが創り出したクレイ・アニメーションの傑作「ナイトメア・ビフォア・クリスマス」。

個性豊かなグロ可愛い住人たちが住むハロウィンタウンの王ジャックは、それまでずっと子供たちを驚かすことが最上の仕事だと信じて生きてきました。
ところがそんな彼は、いつしか誰にも打ち明けられない秘密の悩みを抱えていたのでした。
「本当にこのままで良いのだろうか?」――。
心に拡がるそんな疑念を持て余していたとき、彼はふとしたきっかけでクリスマスの存在を知ります。
「これだ!」と雷に打たれたかのようにジャックは、その何処までも明るく楽しそうな祭典を自分たちで行うことを決意します。
それが、取り返しようもない過ちとなることも知らずに……。

ティム・バートンが天才たる所以は、他の追随を許さないグロ可愛いダークな世界を緻密に構築するそのイマジネーション力もさることながら、やはり常に社会的マイノリティの視点でもってストーリーを紡ぎだすところでしょう。
クリスマス・タウンという社会の明の部分で生きることが自然な人々と、常に暗い夜陰で生きることを宿命づけられたハロウィンタウンのモンスターたち…。
ハイクオリティのダークメルヘンとしても一級の作品なのに、それだけでは収まらず、ここには大人社会の寓意が実に巧みに埋め込まれています。
結婚や就職や出産や子育てやマイホーム購入、そして家族と過ごす暖かなクリスマスという社会の大多数の人たちが幸せだと信じて疑わない価値観に、うまく馴染めなかったあるいは手にすることが出来なかった人々に終始寄り添って描かれた、この作品の暖かな目線に僕は何度も救われました。

良かれと思ってしたことなのに社会から忌み嫌われることになるジャックの孤独な姿と、そんな彼を何処までも思いやるサリーの健気さ…、どうしようもなく寂しい冬の夜などにふと観返したくなる、ティム・バートンの傑作だと思います。
かたゆき

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