まぬままおま

パリところどころのまぬままおまのレビュー・感想・評価

パリところどころ(1965年製作の映画)
4.0
ヌーベル・ヴァーグを代表する6人の監督によるオムニバス映画。

1960年代のパリの街並みをみれただけで大満足。しかも全ての短編が面白い!以下、各話ごとにレビューする。

第一話「サンドニ街」ジャン=ダニエル・ポレ
娼婦と気弱な男性が情事に及ぶまでの物語。
明け透けに「ヤるわよ」なんて笑ってしまうじゃないですか。
コメディで純粋に笑った。

第二話「北駅」ジャン・ルーシュ
これは凄い。朝の何気ない日常を長回しで収める凄さ。お椀にコーヒー淹れて飲む様子が中産階級の振る舞いだ。そして妻にカメラを向けている間に夫は髭を剃っているのも面白い。秘密がなくなれば愛が深まる夫と秘密を持ち続けたい妻。二人は喧嘩別れをしてしまうが、妻はある男に出会う。その男は謎めいているが、彼は彼女に運命的な出会いだといい、今すぐ田舎へ行こうと言う。彼女は嬉しくも戸惑い、その誘いを断る。彼は10数えるからそれまでに返事をして欲しいと言う。10数えても彼女は変わらない。男は橋から身を投げ、自殺を遂げる。この劇的さ。最初の長回しで引き込まれ、この結末にも驚いた。脱帽です。

第三話「サンジェルマン・デ・プレ」ジャン・ドゥーシェ
アメリカからやってきた留学生の女と二人のパリの男の物語。
ワンナイトを終え、男が淹れた不味いコーヒーを美味しいといい、大して景色もよくないベランダからの風景を美しいという彼女。一見、バカな女が騙される話かと思いきやバカなのは男でした。父がいるメキシコに行く嘘は容易にバレ、ヌードデッサンのモデルをしていることを彼女に目撃される男の裸はとても滑稽だ。そしてその男と釣るんでいるナンパ男。彼の詭弁もバレて、彼女もメキシコに行く。嘘だけど。パリの些末な恋愛物語はとてもよいです。

第四話「エトワール広場」エリック・ロメール
パリの凱旋門を中心とした円周の道路を右回りするか左回りするか、それだけで面白い話をつくるエリック・ロメールに脱帽です。肩がぶつかったり、ぶつかられた男が倒れこむ様子、それはとても臭い演出なんだけど、それがとてもいいんですよね。そして主人公の男が元陸上選手であることは、成人男性が全速力で道路を走る滑稽さをより際立たせる。ピンヒールで踏まれ革靴にあとができても怒らない男の様子ー痛がっただろうにー、喧嘩した男に電車で再会し、バレないように、隣の客が眼鏡をしていて似ているから眼鏡を外し誤魔化している様子ーバレバレなんだけどー、どれも愛おしいです。そして傘がぶつかりつつも無事である結末ー肩とは反対だーもよいのです。

第五話「モンパルナスとルヴァロワ」ジャン=リュック・ゴダール
一人の女と彫刻家の男と整備工の男の物語。
彼女は二人に手紙を送るが、封入する手紙を間違えてしまう。
「私はあなたが好きで、もう一人の男とは今日別れるために会うのよ」
言葉は誤配され、正しく彼らに届かない。彫刻家の男を本命とするも尻軽と言われ、破局し、整備工の男を本命に切り替えても同様に尻軽と言われ、破局してしまう。結局、手紙は正しく届いていたわけで、本心を届けるのが一番いいと教訓を得ました。

第六話「ラ・ミュエット」クロード・シャブロル
全話の中で一番ブルジョワ家庭を描いた作品。母は病気であるが息子ではなく電話越しで友人と大声で話している。父はメイドに言い寄っている。そして夫婦は口喧嘩ばかりしている。家庭の喧噪にうんざりしている息子は耳栓をして生活を始める。それと同時にトーキーはサイレントと化す。映像イメージのみを見つめる私たち。母は不慮の事故で階段から転げ落ちる。呻きは息子には届かず、彼は街へ出かけに行く。母の顛末は自業自得とも言えるがなんとも悲しい。そして本作で一番大人なのは息子なんだよな。夫婦がぺちゃくちゃ喋っている様子は幼児である。

以上、各話レビューしてきた。彼らは場所の真正性に基づき、手持ちカメラで縦横無尽に物語を紡いでいる。彼らのような物語を私も紡ぎたい。