ワンコ

異人たちとの夏のワンコのレビュー・感想・評価

異人たちとの夏(1988年製作の映画)
4.2
【心の隙間】

イギリス映画の「異人たち」が公開になる。

人とは、記憶のぽっかり空いたところや、心の隙間を埋めたいと思うものなのだ。

更に、他人(ひと)の心を理解してあげられず、傷つけてしまった後悔から逃れようにも逃れられない。

この「異人たちとの夏」にはそんなメッセージが込められているように感じる。

原作者の山田太一さんは「異人たちの夏」の前にラフカディオ・ハーン(小泉八雲)が主人公の「日本の面影」を発表していた。
ラフカディオ・ハーンは言わずと知れた「Kwaidan(怪談)」の作者だ。
そして、その前には「ふぞろいの林檎たち」が大ヒットしている。

山田太一さんは、日本が高度経済成長を経て、経済大国と呼ばれるようになって、しかし、「モーレツ」と称される社員や人間像が称賛され、偏差値偏重の個性など関係ない受験戦争が激化、歪んだリアリティばかり強調され、没個性が当たり前で、若者を含め人々がアイデンティティを持ちにくい環境となるなか、ラフカディオ・ハーンによる日本の怪談蒐集に触れ、人を内面から見つめ、更に死者の気持ちにも想いを馳せ、人とは何なのか、ひいては人の心とはどんなものなのか、人間とはどんな存在なのかを考えて、この小説を書いたんじゃないのかと思う。

映画は原作にほぼ忠実で、大林宣彦さんらしくノスタルジックな映像が印象的だ。

終盤の両親とのお別れの場面は、両親の気持ちも察することになって胸がいっぱいになる。

人とは、記憶のぽっかり空いたところや、心の隙間を埋めたいと思うものなのだ。

更に、他人(ひと)の心を理解してあげられず、傷つけてしまった後悔から逃れようにも逃れられない。

最後、ノスタルジックというより、オカルト・ホラーちっくな演出があるが、怨嗟の気持ちも願えば鎮まるということなのだろうか。

山田太一さんのご両親は浅草で大衆食堂を営んでいたらしい。

もしかしたら、ご自分の心にも寄り添った作品なのかもしれない。
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