五月王

異人たちとの夏の五月王のレビュー・感想・評価

異人たちとの夏(1988年製作の映画)
5.0
この映画は身につまされた。中年男の自立の物語だから。
妻への依存、仕事への依存、親への依存、女への依存、それらを全て失った後に残るものは。
仕事仲間と元妻、親と恋人、その確執。それらが、次第に交錯していく。
ある意味ホームドラマだ。だから、どれが欠けても奥行きがなくなる。
ただ、両親との再会の物語は日本的幽霊話、恋人との蜜月はマンションを舞台にしたゴシックホラー。接ぎ木のようで巧く折り合ってない感じはした。

しかし、この映画の魅力は、断然、両親の住む世界の懐かしさ、美しさに尽きる。それ以外はサブストーリーかも知れない。
僕ら一人一人のノスタルジー。父親(鶴太郎)の粋さ、暖かさ。母親(秋吉久美子)のかわいさ、健気さ。
取り返しの付かない過去。本当に胸が詰まった。

すき焼きの匂いが、ずっと残った。

この映画、もひとついえば、裏テーマは、主人公を巡る母親と恋人の確執、取り合いだろう。
主人公は(きっと離婚の原因だったであろう)懐かしいマザコンから何とか脱却し、(ボロボロになって)ようやく新たな恋人を選んだつもりが、依存先が代わっただけ。最後に残るのは(男どうしの)友情。
だからホームドラマなのだ。
ただ古典劇のような普遍性がある。
分かりやすくて胸に染みる山田洋次らしい本だった。
それをあれだけ象徴的に見せてしまう、映像と役者。
ひとえに大林監督の才能だろう。

なんて評論家はあっちへ蹴り出して、
秋吉久美子のおかーさーーんん・・・。

(2004鑑賞)
五月王

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