えそじま

恋愛日記のえそじまのレビュー・感想・評価

恋愛日記(1977年製作の映画)
4.1
「赤ん坊は、私です」「愛撫する資格をください」「女の脚は美しくバランス良く地球を測るコンパスである」等、変態映画史に残る迷言を残した男の変態日記は、フランス文学界の色魔王ことアンリ=ピエール・ロシェの私生活を記した凶悪な手帖に基づいている…はずなのだが…

この女に対する異常なアグレッシブさの源は、かつて母の淫らな美しさから受けた目覚めにあり(あれ?)、その性癖を活かした作家気質は少年期に読み耽ったという書物に還り(……!)、現在では流体力学研究所で気流の研究をしながら、なぜか船の模型を水に浮かべる謎の実験もしている。つまりドワネルである。さらに夫殺しで牢獄に入る破天荒女のデルフィーヌは『私のように美しい娘』のカミーユを想起させるし、看護師の美脚にしがみつこうとして死ぬ脚フェチ男の滑稽な姿は、『ピアニストを撃て』でオフクロを即死させたギャングが話す父親の死に様ともダブる。

女と本に対するトリュフォーのフェティッシュな愛、そのフィルモグラフィと、ロシェの手帖を融合させた(というよりも利用した)ような非常にウケる作品。



以下『突然炎のごとく』(原作ロシェ)公開時のインタビューにおけるジャンヌ・モローの証言(訳 山田宏一)

「アンリ=ピエール・ロシェは生涯に数えきれないほどの女性と関係を持った人で、その愛の記録を克明に記していました。その手帖をフランソワ(トリュフォー)は買い取って、一時、出版するつもりで、秘書を雇いタイプさせていました。しかし、半年後にはその秘書がノイローゼになった。二人目の秘書を雇ったけれども、やはり半年後にはノイローゼになった。三人目も同じでした。私も少し読ませてもらったことがあるのですが、アンリ=ピエール・ロシェの手帖は、女、女、女の記録なのです。彼の小説では女が美しく魅力的に描かれていますが、手帖は別です。女はまるでセックスだけのモノ、魅力的なモノ扱いです。そうした女との関係の記録の連続をタイプしていたら、どんな女だって神経がおかしくなるでしょう。その手帖は吐き気を催すくらい凄まじいものです」
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