イギリス生まれのマーク・ドーンフォードメイ監督は、イギリスの劇場に25年従事した後、ロンドンのウィルトンズ・ミュージック・ホールを拠点にブルームヒル・オペラを設立しました。そんな彼は南アフリカ共和国に魅力を抱き、2000年にTEDでも講演経験のある名指揮者チャールズ・ヘイゼルウッドと共にケープタウンにDimpho di Kopaneという団体を設立しました。そんな彼の初映画にして、このDimpho di Kopaneと共に創り上げた本作はコサ語で語り直す『カルメン』となっています。ケープタウンにあるカヤリシャはアパルトヘイトによる黒人向け隔離地区として1985年に作られた場所。ヨーロッパ圏におけるユダヤ人隔離所ゲットーに近い扱いを受けている場所だ。そこで描かれる『カルメン』は単にアフリカのエキゾチズムやカルメンの語り直しの珍しさに胡坐をかくことなく、映画という拡張された舞台を最大限に活かし、『カルメン』の魅力を引き出すことに成功した傑作でありました。