OASIS

木を植えた男のOASISのレビュー・感想・評価

木を植えた男(1987年製作の映画)
4.0
2013年にこの世を去った、高畑勲とも交流が深かったというカナダのアニメーション作家フレデリック・バックの作品集。
DVDに収録されている9作品を一つに纏めて書いてみる。

①アブラカダブラ
悪者に盗まれた太陽を取り返そうと旅に出る少女の話。
台詞は全く無し。
多分「太陽は何処にいるか知っていますか?」ということしか言ってないと思うが、それだけでどんどん旅の仲間が増えて行くのが面白い。
人種もバラバラで、中には日の丸の旗を船に掲げた日本人らしきキャラクターも居たりして。
子供がクレヨンで描いたような絵が味わい深くて、傘から発生した虹が空へと拡がって行く瞬間がとても美しかった。
本編約9分。

②神様イノンと火の物語
アメリカ先住民の伝説を描いた話。
火を奪われた人間を救うべく立ち上がったタカとビーバーとオオカミ。
雷神の住む山へ旅に出た彼らが、困難に立ち向かいやがて人間の元へと火を送り届ける。
お供だけで旅する桃太郎みたいな話で、勇猛果敢な動物達とは反対にずっと素っ裸な人間が滑稽に見えた。
「昔人間は動物達と話が出来たのだ」という部分からは、純粋な心を喪い動物の住処を奪っていった人間達へのメッセージを感じた。
本編約9分。

③鳥の誕生
四季を自由自在に操る化け物に狙われる村の話。
台詞無しの為良く分からなかったが、三匹の子ぶたみたいな話だった。
森を枯れさせたり、雪を降らせたりする化け物に振り回される少女達+婆さんが可愛らしい。
少女達の悲痛な叫びを聞いて助けようとする太陽がめっちゃイケメンフェイスで笑ってしまったが、鳥の誕生する瞬間の色彩が鮮やかで四季の表現も分かり易かった。
本編約10分。

④イリュージョン?
子供達と動物が仲良く暮らす小さな町にやって来た手品師の話。
非常にメッセージ性が強い一本だった。
子供が乗る牛や馬を車やバスに変え、木や小川を鉄塔や排水管に変える。
最初はそのマジックに驚いていた子供達も、高いビルに囲まれて工場で流れ作業をさせられているうちに「こんな生活嫌だ!」と逃げ出してしまうという内容。
果たして、子供達の目の前に現れたあの悪い大人は一体誰なのか?という所を考えると、その正体は決して一人では無いのだろうと思われる。
本編約11分。

⑤タラタタ
賑やかなパレードとは正反対に寂しい生活を送る少年の話。
パレードで街を闊歩する馬の後ろにはその糞を餌にしている鳥達が居たり、祭りの後にはゴミだけが残っているという寂寥感に虚しさが込み上げてくる。
そんな中で、旗を振って密かに余韻を楽しもうとする少年の笑顔とそれを見守る大人の視線が優しいお話だった。
本編約8分。

⑥トゥ・リアン
丸裸で産まれた人間の進化を描いた話。
こちらもメッセージ性の高い内容だった。
ぬぼ〜っとした容姿の神様?が創り出した人間が「あれもしたい!これもしたい!」とあらゆる要求をして困らせる。
魚の姿に進化させると「寒い!」と文句を言い、獣に進化させると「毛が痒い!」と駄々をこねて神の怒りを買う。
そして、見放された彼らは鳥や獣を狩り始め、毛皮や貴金属で身を飾ろうとする...。
死屍累々と積み上げられる動物達の死骸に、消費され続ける文明社会へのアンチテーゼ的なメッセージを感じた。
本編約11分。

⑦クラック!
椅子の一生を描いた話。
結婚した夫婦に大切にされ、その子供達にも気に入られ、幸せな表情を絶やさない椅子が、持ち主に怪我をさせたり時代の流れによって廃棄されてしまう。
変わり行く街の景色や原発反対運動などなど様々な時代のうねりを経験し、美術館に展示されるという内容。
タップダンスやら楽器の演奏やらで楽し気な雰囲気を醸し出したいるが、その裏には幾多の歴史に犠牲になった家具達が存在しているのだという事を考えさせる。
本編約15分。

⑧木を植えた男
荒れた大地を旅する青年と、そこで一人黙々と木の種を植え続ける老人の話。
これが9作品の中で一番良かった。
老人が一言も喋らない所は威厳に溢れているし、青年の要求を優しく受け入れるその抱擁力にも大人の余裕が感じられる。
また、物語全体を包み込むセピア色の風景も非常に味わい深くて、荒れ果てた大地の淋しさとのマッチング
具合が素晴らしい。
第一次大戦と第二次世界大戦、二つの戦争を経験しつつも自分に与えられた仕事を遣り通す老人の一途な人生に涙が溢れそうになった。
小さな事からコツコツと、じゃないが地道な努力がやがて実を結び神の御業に近い物まで創り出してしまうという、人間に秘められた未知なるパワーを感じさせるお話だった。
本編約30分。

⑨大いなる河の流れ
太古に出来た河と、それによって生活を支えられてきた人間の話。
環境汚染に対するメッセージが露骨過ぎるが、海に住む生物達の表現が素晴らしくて息をのむ。
特にウミガメのシワや甲羅のゴツゴツとした質感表現は圧巻だった。
海の生き物を乱獲し発展していく街と、発展する事によって垂れ流される工業排水で汚染される海。
奇跡によって生まれた大いなる恵みを、自らの手で壊してしまおうとする人間の愚かさを訴えかけて来る。
本編約25分。

9つの作品どれもが、人間と深く関わる植物や動物との歴史や、文明が発達する事によって加速度的に膨らんで行く人間の傲慢さ、それによって破壊される自然環境への憂いを描いていると感じた。
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