オーウェン

動乱のオーウェンのレビュー・感想・評価

動乱(1980年製作の映画)
3.5
「動乱」は、暗い時代のストイックな愛を高倉健、吉永小百合の共演で描いた男女の愛の物語ですね。

この東映映画「動乱」は、製作者が岡田裕介、監督が「八甲田山」「聖職の碑」の森谷司郎で、脚本が「華麗なる一族」「不毛地帯」の山田信夫のオリジナル作品となっています。

現代にもつながる昭和動乱の起点となった、昭和7年の五・一五事件から二・二六事件までの暗い時代を背景に、それに巻き込まれていく男と女の禁欲的な情熱を描いています。

宮城大尉(高倉健)は、脱走し銃殺された貧農の初年兵の姉の薫(吉永小百合)が、娼婦に身を落としている状況の中、鮮満国境で再会します。

そして、上官の汚職と引き換えに彼女を救った宮城は、東京で一見夫婦風の平和な居を構えますが、それは"昭和維新"を目指す宮城が、世を欺くためであり、また、金で買った昔の男たちと同じように薫を抱く事は、彼女を傷つける事になると考え、薫の負い目に乗じたくないという思いやりからでもあったのですが、死を覚悟している男として女を泣かせたくなかったからでもありました。

このような、厳しくも優しい、寡黙の男を演じられる俳優は、高倉健しか考えられない程の適役ですし、その宮城をひたすら愛し、それに耐える女を演じる吉永小百合は、情感に満ち溢れています。

このストイックなまでの愛情が燃え上がり、二人が結ばれたのは決死の行動の前日でした。

この男女は、全くのフィクションですが、脚本が二・二六事件についてもフィクション的な扱いをしている事が、この映画の迫力・迫真性を失わせていると思います。

彼らの決起の趣旨も、また、その挫折の過程も明らかにはされていません。
そして、宮城の獄中記の内容も、わからないままです。

最後に、「この事件の後、軍部ファッショが確立し、大陸侵攻が本格化した」と解説していますが、仮に、このクーデターが成功し、皇道派が統帥派に代わっても、戦争への途を避ける事が出来たとは、到底、思えません。

森谷司郎監督は、この映画について、「本当の事というのは、永遠の謎だ。ただ僕の考えたのは、社会情勢が現在とソックリだという事だ。当時は貧しくて、今は中途半端に豊かだけれども、政治そのものは少しも変わっていないんだよね」と語っていますが、それだからこそ、この事件を、ドキュメンタリー・タッチで史実に即して、客観的に描く事の今日的な重要な意味があったのだと思います。

こわれ易く、こわし易い民主主義を守っていくためにも、その必要性がありますし、間近な歴史を抽象化して、北一輝を描いていた「戒厳令」(吉田喜重監督)と同じ弱さがあったように思います。
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