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アーティストのSNのレビュー・感想・評価

アーティスト(2011年製作の映画)
4.6
この時代にサイレント?なんて考えだすと現代映画に対する警鐘めいた代物を見せられるのではないかと身構えていたが、そんなことは微塵もなかった。すごく面白い。
小道具を含めて、細部まで行き届いた拘りには脱帽。可能な限り、時代感や肌触りを再現してみせようという心意気が伝わってくる。モノクロの特権ともいえるフェードインやディゾルブはバチッと決まり、情感を際立てるブラーや、吼えたてる犬には絞りを効かせたフォーカスで臨場感を、と小技が効いて気持ちがいい。だが、そこはやはり現代の映画。白飛びや黒潰れ、音飛びなどのリアルな骨董感は再現されていない。「古さ」だけを味わいたいのならば、実際に古い時代の映画を観るだけで事足りるから、瑣末主義に走りすぎないこの姿勢は評価したい。
その時代を生きた人たち(もうほとんどいないだろうが)には懐かしく、現代を生きる人間には斬新にうつるこの作品。それを回顧と断罪するのは容易いが、この主人公がそうであるように、映画はその芸術的特性からして、常に回顧的である。revue(再見)=反復の快楽は、観客よりもまず映画人たちを虜にしてきた。この映画の中に、アステアのステップや、ジョージ・ガーシュウィンの音楽、クララ・ボウの妖艶さを見てとることが喜びはでないと言うのならば、映画の楽しみをどう伝えればいいのだろうか。
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