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愛と死の記録のodyssのレビュー・感想・評価

愛と死の記録(1966年製作の映画)
3.0
【悲愴交響曲】

BSにて。

吉永小百合の『愛と死を見つめて』が大ヒットしたのが昭和39年。その2年後に、やはり吉永小百合を主演にして作られたのがこの映画。
『愛と死を見つめて』では恋人(浜田光夫)の励ましにもかかわらず小百合さんが難病で死ぬ役でしたが、ここでは逆に恋人(渡哲也)が原爆起因の難病で死ぬことに。小百合さん必死の看護の甲斐もなく・・・という筋書です。

モノクロなのは『愛と死を見つめて』と同じ。
監督が芸術派の蔵原惟善監督なので、過度にではありませんが、映像はそれなりに凝っています。小百合さんが醜く映っているところもある。まあ、芸術ですからね。

舞台の広島の街。橋が多い。市電が走っている(今も走っていますが)。
私としては、当時走っていたクルマが懐かしいなと思いました。
トヨタのパブリカ、マツダのキャロル、いすずのベレット、日産のセドリックとブルーバード。ブルーバードは何度もモデルチェンジをしていますが、あの頃のブルーバードが最高だという評価がある。いすずの名車ベレットもカッコいい。

渡哲也と小百合さんがノーヘルでバイクに二人乗り。今なら即警官に捕まるところですが、あの頃はこうだった。人間が活気を持って生きている時代は、過度に安全性なんか考えないものです。

まあ、それはともかく、唐突な出会いから相手に惹かれていきつつ、途中までは慎重だった小百合さんが、相手の病気を知って一途になっていくところが見どころでしょう。

レコード店の店員である小百合さんが、知り合いに頼まれてチャイコフスキーの悲愴交響曲のディスクを持っているシーンが最初のあたりに出てきます。この伏線が、最後近くに芦川いづみの登場でしっかりと活かされている。それだけでなく、ラスト・シーンのバックグラウンドの音楽も悲愴交響曲です。さすが蔵原監督、伏線を無駄には張っていませんね。

ちなみに蔵原監督は1945年に18歳、海軍の訓練を広島県で受けていたとき、原爆を目撃しています。

あまり長すぎないのもいいですね。エッセンスだけを詰め込んで作れば、映画の尺はこのくらいが妥当だと思う。
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