この映画「ビバリーヒルズ・コップ」は、笑い転げて、グサリと胸を刺される映画で、とても面白かったですね。
第一のポイントは、主人公を演じているエディ・マーフィのうまさ。
「48時間」「大逆転」で、大変な人気になった黒人スターで、サミー・デイビスJr以来の凄い芸人ですね。
この映画での彼は、あの自動車工場と失業と犯罪の街デトロイトの刑事。
友人が殺されて、真相を探るために、カリフォルニアのビバリーヒルズに乗り込んで行く。
と言っても、上司の許可はおりっこないので、休暇をとっての単独行だ。
やがて、正面に立ちはだかった巨大な犯人。デトロイトの黒人刑事の猛然たる戦いが展開するのだった--------。
デトロイトが労働者の街だとするならば、このビバリーヒルズは、超上流階級の社会。
どんより曇った北部のデトロイトの空に比べて、抜けるような青空だ。
この全く場違いな舞台に飛び込んだ刑事が、ハイソサエティのスノップ共を、見事に巧みに手玉に取って見せる、その面白さ。
ビバリーヒルズじゃ、言葉もアクセントもデトロイトとは違う。
相手を見下し、体をくねらせ、小指を挙げてポーズをとる。
そんなビバリー人種のいやらしさを、エディ・マーフィが、実に達者にコピーして見せるのだ。
この彼の芸こそが、この映画の見せ場とも言える"ショー"であり、ハイライトなのだ。
しかし、この映画は決してそれだけのものではないんですね。
当時、33歳という若さのマーティン・ブレスト監督は、このエディ・マーフィの芸を媒体としながら、実に痛烈な文明批判のパンチを浴びせてくるのだ。
同じアメリカでありながら、金持ちは金持ちだけで、自分たちの社会を作るその差別。
ビバリーヒルズの警察官に捕まって、パトカーに乗せられた彼が、「こんな綺麗なパトカー見た事ない!!」と言うあたりは、平等の国アメリカにおける自治体そのものの貧富の差が、ズバリ語られていて、大爆笑ものですね。
白人の金持ち社会であるビバリーヒルズ市では、勤務する黒人刑事までが、ビバリー・アクセントでしゃべるのだ。
頭にきたエディ・マーフィが、「黒人なら、こうしゃべれ!」と、黒人特有の訛りで、ベラベラとまくしたてる場面は、アメリカの映画館では、割れんばかりの拍手が巻き起こったそうだ。
エディ・マーフィの芸にしろ、器用な風俗描写という以上に、人間の温かさが滲むものが素晴らしいと思います。
徹底的な追っ払い作戦であしらった、ビバリーヒルズの刑事たちを、土壇場でかばって泣かせるあたりのエディ・マーフィは、決して形だけの芸人ではなく、心がありますね。
笑い転げて、見過ごしてしまいかねないこの映画は、実はアメリカという国を断裁した、凄い傑作なのだと思います。