櫻イミト

パンドラの櫻イミトのレビュー・感想・評価

パンドラ(1950年製作の映画)
3.5
「ドリアン・グレイの肖像」(1945)のアルバート・リューイン監督によるミステリアスな耽美映画。美術スタッフにシュルレアリストのマン・レイ。撮影は「黒水仙」(1947)「赤い靴」(1948)のジャック・カーディフ。原題は「PANDORA AND THE FLYING DUTCHMAN(パンドラ&さまよえるオランダ人)」。「死ぬまでに観たい映画1001本」掲載作品。

1930年代スペインの避暑地エスペランサ。自分を愛した男は死んでしまう宿命の美女パンドラ(エヴァ・ガードナー)は、ひとり豪華な船で絵を描くヘンドリックと出会う。彼は、“自分のために死ぬ女性が見つかるまで航海を続ける”という呪いを受けた”さまよえるオランダ人”だった。。。

「ドリアン・グレイの肖像」の耽美さがとても好みだったリューイン監督。テクニカラーが美しい本作は、冒頭から鐘ごし海岸ショットが素晴らしく期待が高まる。前半はガードナーの醸し出す神秘的なオーラ、監督のセルフオマージュとも言えるパンドラの肖像画エピソードなど、ワクワクと楽しめた。だが、“さまよえるオランダ人”の回想シーンで映画の流れが中断し、以降は少々説明的で主人公の顛末も読めてしまった。物語への興味はそこまでだが、終盤は再び耽美的な世界が展開しそれなりに楽しめた。

なお、IVC発売のDVDは画質と色味が悪く本作の良さは全く味わえない。

リューイン監督は当時のハリウッドでは珍しいバリバリのインテリだったとのこと。本作にも様々な引用が忍ばせてあり、元ネタの知識が多いほど楽しめそうだ。

【パンドラ】
ギリシア神話に登場、人類の災いを呼ぶ最初の女性
【さまよえるオランダ人】
イギリスの伝説登場、1人で永遠にさまよい続ける幽霊船の船長
【ルバイヤート詩集】
11世紀ペルシアの詩人ウマル・ハイヤームの四行詩集
【タマム・シュッド事件】
ルバイヤート詩集の切れ端をポケットに入れた身元不明死体が海岸で発見された事件

※コスタ―シュ監督「ぼくの小さな恋人たち」(1974)で長々と本作が引用されている。
櫻イミト

櫻イミト