カラン

ハンニバルのカランのレビュー・感想・評価

ハンニバル(2001年製作の映画)
4.0
レクター博士のやつ。『ハンニバル』”Hannibal”というタイトルは、ハンニバル・レクター博士のファーストネームを取っているが、食人を表すカニバルcannibalismの連想をあきらかに狙っている。

そこでタイトル通りに、イノシシに生きている人間を食わせたり、頭蓋を切開して、ロボトミー手術によって人格改造した男の血で染まった脳を映し出す。さらにその脳を食べるように子供に勧める。そういう過激な描写や設定が満載になっている。

☆『グラディエーター』の次作

Blu-rayで視聴した。画質も音質も非常に優れている。リドリー・スコットが本作の前年に公開したのはかの有名な『グラディエーター』(2000)であり、これはAVマニア(アダルト路線ではなく、オーディオとビジュアルの略ね。)たちの間でもよく取り上げられるほどのレベルである。カメラは違うようだが同じく35mmフィルムで撮影された、この2つの作品は見事な調整をされた画質である。また、2010年以降はそれ以前の作品と比べると音質が段違いなのだが、両者ともにそのSEはいまだに全く古びていない。サラウンドの焦点があっており、フレッシュでパンチのあるサウンドを聴かせてくれる。この2作品に関して自分の好みを言うならば、『ハンニバル』だ。

☆オーディオ

優れているのは、音響である。ハンス・ジマーの担当した劇伴が特段に優れているとは思わなかった。それよりむしろSEである。映像が始まる前の暗闇の画面で、砂利を踏むような音が満開になる。つい先日、『猿の惑星:聖戦記』(2017)をBlu-rayで観た。これは2017年なので、Blu-rayソフトの製作が一巡した後のソフトであり、7.1chサラウンドによる粒の細かさである。これの冒頭は森での戦闘シーンだが、戦火の口火が切られる前、雨が降っている。山に降る雨の気配が充満する。この冒頭の雨のSEには、『ハンニバル』の冒頭は及ばない。

しかし、オープニングクレジットを挟んで、市街地でギャングと交戦するシーンでは、凄まじいエネルギーの音が交錯する。マシンガンの連射は1発1発が腹に響き、車体への着弾の金属音も感動的である。『猿の惑星:聖戦記』の冒頭の森の中の交戦シーンも既に述べたように7.1chの分解能を活かした優れたSEなわけだが、『ハンニバル』の市場での交戦シーンの1発1発のフォーカスと力感には及ばない。

非常に素晴らしいと感じたので、後で怪しいなと見返したのだが、やはり、このシーンは音だけである。というのは、所詮ギャングレベルの相手なので、交戦が始まると、クラリスとFBIを主体とするチームがすぐに制圧してしまい、決着も防弾ベストの腹部に複数被弾しながらクラリスが正確に犯人を拳銃で狙撃し返しておしまいである。役者はジュリアン・ムーアだからね、おおーすげえって思わないことはないが、冷静に考えたら〜っていうレベルのアクションなのである。

しかし、繰り返すが、このガンアクションは発砲音のSEは抜群である。だが、この後に重厚な低音が入る場面もあるが、ハンス・ジマーの劇伴が目立ち、映画も脚本上の設定の展開が多く、SEの音響工学の技術は見せ場を失う。サイレント以後ならば映画って、劇伴よりSEの多い方が映画っぽいのかもね。

☆ビジュアル

オープニングのクレジットタイトルは、デザイナーがトレーラー用に作ったが、トレーラーとしては没になり、気に入ったリドリー・スコットがクレジットタイトルに採用したという代物で、鳩をドットにしたスタイリッシュ系だが、まあ、今時あまりないし、それを引き継いでいるような映画も記憶にない。ダニエル・クレイグ版007シリーズのほうがずっと手が込んでいる。思いつきでやってないで、リドリーのはどうせ金かけるなら、ちゃんと作り込んだのをやれって感じ。

また、パープルのイメージのゲイリー・オールドマンが演じる謎の富豪の居室も、デヴィッド・リンチの『ツインピークス劇場版』を超えるようなものではない。

映画のヴィジュアルとしてこの映画に不足しているのは、明らかにアクションである。上で言及した市街地でのガンファイト。また、フィレンツェで腹を掻っ捌いたところ。この2点以外には、残酷なゴア描写が多めと思われている本作にまともなアクションは、ない、のである。アクションをしたことにはなっているのだが。こういうのを準アクション設定と呼ぶことにしょう。ハンニバルは真正のアクションが乏しい。


文句が多くなったが、長らく3作で止まっていたリドリー・スコット作品で好きといえる映画が4本となったかもしれない。『ブレードランナー』、『エイリアン』、『白い嵐』、そして『ハンニバル』であるか。
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