猫脳髄

エボラ・シンドローム/悪魔の殺人ウィルスの猫脳髄のレビュー・感想・評価

3.5
香港映画のレイティングシステムである「三級片(18禁)」ホラーの作品群とその系譜についてはまだ不勉強だが、1970年代末までさかのぼるようだ。80年代にかけて第1次ヴァイオレンス映画ブームがあり、本作の監督ハーマン・ヤウは「八仙飯店之人肉饅頭」(1993・未見)を皮切りにした第2次ブームをけん引した代表者に位置づけられる。

本作はヤウが怪優アンソニー・ウォンをアンチ・ヒーロー的な主人公に据えたボディ・ホラー3作品の最終作にあたるが、共感をまったく許さない悪党キャラのウォンが、香港や逃亡先の南アフリカで自己中心的な理由で殺人を繰り返したあげく、エボラ出血熱のキャリアとなって香港に帰還するという筋書きだが、1本の作品に盛り込むには明らかにモティーフが過剰なのである。

やや間抜けで下品、常にカネとセックスのことばかり考えている小悪党的なウォンだが、彼はただ欲望のままに振舞うだけなのに、周りは死屍累々である。暴力、セックス、ゴア・グロテスク描写もまるで「三級片」であることを逆手に取ったようにどんどん盛り込んでいく(本作にも人肉食のモティーフが付加される)。

クライマックスで「愚かな警察」(ここはヤウの意図がありそうだが)に追われたウォンは、子どもを殺し、人びとに汚染された血液を吹きかけ、さらに火だるまになりながら、「オレはエボラだぞ~!」と喚いて香港の街路を疾走する。ここまで嫌悪を誘っておいて、まるで、抑圧された情念と破壊衝動を観客に代わってノンリミットで解放しているかのような清すがしさに転調する。こういう悪党のペーソス全開の作品は西欧スプラッターにはなかなか見られない。

不要なスローモーションの多用などねちっこいカメラワークには不満があるし、特にウォンが主人公の下品で不潔なさま(鼻クセが悪くモゾモゾ動かすのも不快)を強調している点やイナタいギャク描写など、嫌悪を誘うカットも多々あるが、香港三級片ホラーのひとつの到達点として、まずは評価したい。
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