スギノイチ

波光きらめく果てのスギノイチのレビュー・感想・評価

波光きらめく果て(1986年製作の映画)
2.5
盤石な布陣にも関わらず、なぜか日本映画史から完全に黙殺されている感のあるこの作品。

不倫の末にぼっち心中をしてしまった恋多き松坂慶子が、教師である渡瀬恒彦と不倫に走るという内容だ。
80年代の松坂慶子はどんな役をやっても振る舞いがホステスか女郎なのだが、この映画ではそれが意図的に使われている。
性的感情とは全く関係無くやたらボディタッチをして、無意識に周囲の男を誘惑する魔性の女である。
三國連太郎など明らかにムラムラを隠しておらず、まだまだ現役だったろう獣欲を開放するのではとハラハラする。

序盤、松坂慶子のせいで周囲の関係性が少しずつ狂っていくところはちょっと面白いのだが、無自覚な悪魔だったはずの松坂慶子の行動が確信犯的かつバカになっていくにつれて魅力が無くなりつまらなくなってくる。
渡瀬恒彦との不倫中も、その妻である大竹しのぶの苦しみを知って葛藤するのだが、その間も渡瀬恒彦への誘惑を一切緩めないので二重人格にしか見えない。
あまつさえ「眠れないからって奥さんを抱こうとしないで」などと愚かなことを言いだす。
見た目がいいだけのあまりのちゃらんぽらんぶりに登場人物も観客もついていけなくなる。
終盤になると、少なからず好意を抱いていたであろう三國連太郎からもボロクズ扱いされている。
渡瀬恒彦との不倫を責められた挙句「(お前なんぞと関わったばかりに)人生の最期ば、つまらんこつしてしもうた」とまで言われ、ようやく家を飛び出す。
遅えよ、という感じなのだが、なんとその足で渡瀬恒彦の元へ直行、熱い濡れ場をかます。これはひどい。

俳優陣の演技自体は良いし、印象的な場面も多い。
渡瀬恒彦の演技は『涙橋』や『時代屋の女房』的な抑えた大人の演技。これはこれで良い。
夫の不倫への不信感で発狂した大竹しのぶが「貝から剥しても生きてるのかな?」などと言って生きたアワビを剥しまくるという奇行に走るシーンは後のクレイジー演技の片鱗を感じる。
何より、松坂慶子の濡れ場はそれはもう激しく気合が入っている。
スタッフもキャストも良いのにどうしてこんなにイマイチなのか。
やっぱ、もうちょい主人公が魅力的ならなあ。
周囲を顧みず突っ走るのは結構だけど、馬鹿すぎるのはよくない。
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