ちょっと薄味すぎた気がします。ミツバチの囁きでは、子供目線で大胆かつパーソナルに世界を省略したことで、かえって感覚的に内戦の傷を抉り出したところに底知れぬ力強さがありました。しかし本作では、父を愛する娘が、介入できない父親の秘密を垣間見ようとするという、非常にパーソナルな展開に終始してしまっていて、面白みにかけていました。ぼんやりとした光が強さを増していき、だんだんと部屋の光景が浮かんでくる演出には思わず見入ってしまいましたが、その圧倒的な演出力にシンプルかつ力強く追いつくことができていたのは、間違いなくミツバチの囁きの方でしょう。やはりアンゲロプロス然りエリセ然りタルコフスキー然り...静かに画力で魅せるタイプの監督の作品には、圧倒的な芯がないとただの睡眠導入剤になってしまうということが、自分の中ではっきりしました。
