青山

エル・スールの青山のレビュー・感想・評価

エル・スール(1982年製作の映画)
3.7

1957年の秋のある朝。エストレリャは枕の下に父の大切にしていた振り子を見つけ、父がこの世を去ったことを知る。内戦の最中に南の故郷を捨て家族と共に北の地にあるこの家にやってきた父。エストレリャは幼い頃の父と過ごした日々を回想しながら、父の苦悩に思いを馳せる......。


『ミツバチのささやき』に続くビクトル・エリセ監督第2作。
『瞳をとじて』の公開記念で本作も上映されていたので観てきました。


父が死んだことを悟る冒頭のシーンから時が巻き戻って父と過ごした日々を回想していく話。冒頭では父が母親の胎内にいた頃の主人公の性別を言い当てたり鉱脈か何かをダウジングで当てたりと魔術師のように描かれていて神秘的なのですが、やがてそんな父が何かに苦悩していることに主人公が気づく辺りから、父が超越的な魔術師ではなくて1人の悩めるおっさんであることが分かってくる。子供ってのは絵本の中の出来事と現実を地続きに見ていたりして半分幻想の世界の住人みたいなところがあると思うんですが、そんな子供だった主人公が成長するに伴ってだんだん現実の父の姿が見えるようになってくる、みたいなとこが良いですね。
喫茶店の窓を隔てて主人公と過去への手紙を認める父が分断されていたり、後半ののホテルのレストランのシーンで主人公たちと幸せな結婚式の光景とがやはりガラスのドアを隔てて分断されていたりする演出が印象的。あと、ふわっと消灯するような暗転の仕方も良かった。

本作も前作同様背景にはスペイン内戦があり、父親の苦悩というのもその内戦に絡むことのようなのですが、その辺の裏テーマの難しさとは裏腹に、表面上は少女の成長と父親を理解しようとする過程についての普遍的な物語でめちゃくちゃ分かりやすいのが良かった。
まぁ個人的には、分かりやすすぎて神秘性が薄れてしまっている本作よりも、よく分からなくても幻想的な映像の雰囲気がエグい前作の方が好きではあるんですが......。主人公の少女も前作の現実離れした美しさの2人に比べると現実的な感じなんだけど、まぁでもそのおかげでより感情移入は出来て主人公の目線で観られた気はしますね。
あと、主人公のボーイフレンドが良いキャラしてたけど電話くらいでしか出てこなかったのでもうちょい登場してほしかったな。


この作品、本来は3時間の大作になって主人公がエル・スール(南)へ行ってからのお話まで描くつもりだったらしいですが、訳あって半分の長さになったそう。しかし「南」を一度も映さないままに、父親のその場所への執着と少女のその場所への憧れというか父のルーツへの興味みたいなものを描いたこの短さも私は好きですけどね......。
まぁ本作がそんな未完の状態になっているのが、最新作の『瞳をとじて』に通じていたんだな、というのも分かって、3作とも観たことでなんとなーく理解が少しだけ深まったような、でも結局分かりきっていないことの方が多いんだけどその分からなさも魅力みたいな気分でいます。
とりあえず『マルメロの陽光』も観たいんだけどどっかで上映してくれんかや......。
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