ツクヨミ

担え銃/チャップリンの兵隊さんのツクヨミのレビュー・感想・評価

2.7
喜劇の中に社会風刺を入れ込んだチャップリンの作家性の基本。
戦争で塹壕の中生活している男。彼は酷い環境の中でもめげずに敵陣地を目指す…
チャールズ・チャップリン監督作品。第一次世界大戦の真っ只中で公開された本作はチャップリンお得意のドタバタコメディでありながら、塹壕戦の深刻さを時折見せる社会風刺のスパイスが効いた作品になっていた。
チャップリンの映画といえば大人子供誰が見ても楽しめるドタバタ喜劇が1番の売りであることは間違いない。今作でも主人公チャップリンが兵隊の基本動作がなかなかできなかったり、変わった行動をして指揮官を困らせるところが可笑しくて笑えてしまう。そのコメディ描写を基本ロングショットで捉えるのがチャップリンの一つの作家性たるものでもあるし、チャップリン自身による「人生はロングショットで見れば喜劇だが、クローズアップで見ると悲劇になる」という面白い変換の描き方が個人的に大好きだったりもする。
しかし今作はチャップリンの映画だ。彼の作家性のもう一つは何かしら社会風刺的な側面をストーリーに組み込むことである。今作に於いてはチャップリンが戦争中に住んでいる塹壕の実態がその背景になるのだが、食べ物が無く家族からの仕送りが唯一の豪華な食事であったり、排水機能が無いため浸水した室内で睡眠をとるなど小さなことだがなかなかに過酷な状況を映像で捉えていく。だがそんな内容をロングショットで捉えることでチャップリンは過酷な現実を喜劇に変えるのだ。実に映画マジックであるし、見方をぐるっと変えると悲劇になるというチャップリンの魔法の基本を本作に見た。
また今作は編集も面白く、度々使われるアイリスイン・アウト、画面を二つに割って見せるダブル構図、ドタバタシーンを早回しで見せることで笑いに昇華したりとなかなか手が混んでいて実に楽しい。
そしてラストシーンはちょっとした仕掛けが映画の印象を変えてしまったような気がしてかなり驚いた。結局夢オチみたいな見せ方で本作は終わるのだが、それがまだまだ戦争は続くという本作最大の社会風刺に見えてきて描き方の上手さに屈服した次第だ。
喜劇と社会風刺という作家性の基本となるようなチャップリン入門編にふさわしい作品だった。後にスタンリー・キューブリック監督が語る「チャップリンは内容が全てで形はない」という言葉の真髄がそこにはある。
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