Shunsuke1992

マリアの受難のShunsuke1992のレビュー・感想・評価

マリアの受難(1993年製作の映画)
3.3
平凡で地味に不幸な冴えない女性の冴えない日常を少しグロテスクに魔術的に演出した映画という感じ。

生まれた時に母が亡くなり、父親と2人暮らし、父親は脳卒中に倒れて父親の看病に明け暮れ、勝手に結婚を決められ、身体障害者の父親がいるので家からろくに出ることは出来ず、買い物だけが唯一の楽しみ。あとは家の虫を殺して集めること。家の向かいに住む男をいつも眺めていて、好意を感じているが……。という流れでお話は進んでいく。



以下ネタバレを含む感想












タイトルもマリアの受難だし、これ何かキリスト教的な解釈を求められるタイプの作品だったのでしょうか、たかるハエとか落ちる時に十字架っぽくなるシーンとか意味ありげなモチーフは散見されるんだけど???

真面目な女性が堕ちていく話と聞いてパッと思い浮かぶ作品はマルキ・ド・サドの『悪徳の栄え』だけどこれも読んでないので粗筋しか知らず、仮に関連があったとしても指摘できない。因みにこの小説についてWikiには「修道院で敬虔な女性として育てられた主人公のジュリエットは、13歳のときに、道徳や宗教やらの善の概念は無意味だと言うある女性にそそのかされ、以来悪徳と繁栄の生涯を歩むこととなる。作品の全編を通して、神や道徳、悔恨や愛といった概念に対する攻撃的な思索が繰り広げられている。 彼女は自身の快楽を追求するために、家族や友人といった親しい人間までもをありとあらゆる方法で殺すのである。」と書かれてあり少し近いような気もする。

彼女はちんぽみたいな人形を後生大事に持っていて、形状からも彼女を抑えつけている不幸な境遇とかを表しているのかなと思って観ていたのだが、人形に何かおこると彼女にも何か起こるようなのでそんな単純なものではなさそう。生まれ落ちてこの方、全て消極的に不幸を受け入れてきた女である主人公は最終的にこのちんぽ人形で復讐を遂げてしまう。最後に死体は向かいの好意のある男にもバレて、呆然としながら窓から大の字になって落ちて、男が受け止めて話は終わる。彼女の手元にあるちんぽ人形は真っ二つに割れている。

小さな頃から人に言えない手紙をちんぽ人形宛に書いていたのを家の壁の隙間に投げ込んでいたが、それをある時壁をこじ開けて大量の手紙を読み直してしまう。そこから彼女が変わっていく。ちんぽ人形に手紙で話しかけると辛いことを忘れる作用があるようで、昔の手紙を読み返して彼女は今まで抑えつけていた平凡に悲しく辛い半生を思い出す。

ちんぽ人形は主に男性から不条理に押しつけられた不幸の詰まった呪いの人形として機能している。

ちんぽ人形で夫を殺すのは象徴的セックスのようだ。男根的なものが誰かや何かを刺すのは大抵象徴的セックスだ。彼女は自由意志と無縁に家庭に閉じ込められて夫のひとりよがりなセックスに付き合わされて幸福はなく社会的に死んでいた。そして最後に彼女のちんぽ人形がため込んだ呪いを吐き出すかのような形をとって夫の身体にグサリと刺さり=セックスして彼を殺すのだ。

途中、夢の中で彼女は彼女自身を出産する。これは初めて自ら好きになった向かいのアパートの男のところに行く途中だった。だからきっと彼女は積極的な幸せを求める女性に生まれ変わっていたんだ。

最後にちんぽ人形は壊れてしまった。今までではちんぽ人形が水に落ちると彼女も呼吸停止したりしていたんだけど、おそらく最後のシーンでは彼女は死なない。なぜならちんぽ人形とリンクしているのは生まれ変わる前の彼女だからだ。

彼女は抱え込んできた全ての悲しさを男たちを殺すことで解消して新たな女性に生まれ変わったのだ、という粗筋なのだと思う。


そんな感じだから、ストーリーはべつに単純で、抑圧された不幸な女の一生とちんぽ人形とそこからの解放なんだけど、それ以外にもきっと要素があるんだろうという香りがしてモヤモヤする。それだけだとしたらあまり面白くない映画だなとも。なぜかYahoo映画の評価が高い。どうしてなんだ、僕がサイコパスなのか???
Shunsuke1992

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