ひれんじゃく

ゾディアックのひれんじゃくのレビュー・感想・評価

ゾディアック(2006年製作の映画)
4.5
被害者とか被疑者とかメインの人達が沢山いるので事前に調べといた方がスルッと入ってくるかもとは思う。実話なので正直ネタバレもクソもないし未解決事件なのでオチもまあお察しだろうし。というか調べてからの鑑賞の方が絶対にいい。というのも実際に送り付けられた自筆の暗号文やテレビ出演時の映像・やりとり、当時配られた似顔絵を見ると「デヴィッド・フィンチャーが本気出して作ったフィクションであって欲しかったどうしようもない現実」感が突きつけられて人間とかいう生き物の底知れなさを覗いてしまった気分になれるので。この殺人鬼と自分は住むところこそ違えど種族的には同類なのだという何とも言えない不安に襲われるので。これはフィクションではなく60年代のアメリカで生きていた人によって何人もが殺された実際の未解決事件なので。

カップルが射殺されるシーンから始まった時点であまりのヤバさに震えた。そのあと妙に軽快なサンタナのSoul Sacrificeをバックに声明が届けられるオープニングとか最高すぎるて。
デヴィッド・フィンチャーというとやはりセブンのイメージが強くて陰鬱なかんじなんだろうな…と思っていたらこんな明るく始まるしで度肝を抜かれて見入ってしまった。今思えば日常を急に断絶してスルッと唐突に狂気と恐怖が紛れ込んでくることをうまく示したオープニングだったなあと。

犯行のシーンはちょっとしか出てこないのにも関わらず、何の前触れもなくピストルでバンと頭を撃ち抜いていくので心臓に悪すぎる。そしてヤバい暗号文と犯行声明を送りつけて遂にテレビにまで出る(実際は出てない)とかあまりに狂ってて怖いの一言しかない。YouTubeで当時のテレビでゾディアック(の身代わり)と弁護士の対話を実際に見てこれが現実なんだなあ…と呆然としてしまったもん。
そんな犯人にグチャグチャにされていく人間たちの様子に重きを置いていたからか、こっちがやきもきしてるときは登場人物と当時の警察もまたやきもきしてたんだろうなと想像がついた。
有力な被疑者とされたリーを追う途中の焦燥感や不安を掻き立てる表現がマジでデヴィッド・フィンチャーだなと素人ながらに思いました。映画のポスターのくだりとかヤバすぎでしょ。

実話でかつ犯人が未だに捕まっていないのでもやっとした終わり方になるのは致し方ない。みんなが諦めて忘れ去ったあともなお必死に、ただの漫画家に過ぎないグレイスミスがゾディアックに食らいついて本を出した顛末を描くためにはこの長尺になるのも仕方がない。釈然としない終わり方も全部込みで好き。アレもアレでゾクゾクっと来たし。あのラストを経てもなお犯人は捕まらないしリーは死亡するしで結局迷宮入りしたっていうのが、それが現実なのがなによりも怖い。そして「リーが死んだあと無言電話はもうかかって来なくなった」というグレイスミスの証言も。この現実こそがホラー以外の何物でもないんだよなあ…
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