鷲尾翼

大病人の鷲尾翼のレビュー・感想・評価

大病人(1993年製作の映画)
4.0
【まとめシネマ】#996

【まとめ】
* 三國連太郎の欲望の演技
* 病を治すことは、時に残虐
* 伊丹十三の死生観

三國連太郎演じる主人公は、大物俳優兼映画監督。ガンに冒された作曲家を自ら演じた映画の制作中に、自身の体に異変が起こり、検査の結果末期ガンと判明する。本作での主人公の姿は、欲にある。性欲やアルコールへの欲はもちろん、次々と起こる展開、その全てに彼の欲望や衝動、心情や野望がセリフや行動にある。その難解な人間味を演じる三國連太郎の演技力は、見事。

本作で印象的なのが、病院に対する風刺を描いたシーン。物語の中盤で、悲惨な姿の患者が登場する。治療のために喉に穴をあけて、声も出せず、ガンも悪化した生き地獄のような患者に対して、病院側は薬剤や医療機器を使って延命さえようとする。患者の家族も、安楽死を志願するが制度が無い日本では延命という処置しか出来ない。その苦行とも思える時間は、強烈な社会風刺だ。

本作は、伊丹十三監督の死生観を描いている。余命僅かな生活のあり方はもちろん、死後の世界も描いている。その限りある時間での起こる出来事の数々は、自身を改める余生でもある。本作で描かれる主人公の最期は、主人公の努力で導いた素晴らしいものだ。
鷲尾翼

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