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禁じられた情事の森のThePassengerのレビュー・感想・評価

禁じられた情事の森(1967年製作の映画)
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カーソン・マッカラーズが著した「心は孤独な狩人」(村上春樹訳)の高い完成度には唸らされた。そこで今回はその天晴な処女作に続き、彼女が筆を執った「黄金の眼に映るもの」の映画化作品を改めて鑑賞することにした
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アメリカ南部の陸軍兵舎。レオノーラと同性愛者の夫ウェルドンの仲はもはや完全に冷え切っており、彼女は隣に住むモリスとの不倫で満たされぬ思いを解消していた。一方のウェルドンも自分の部下にいつしか心を奪われるが、その兵士が惹かれていたのはレオノーラの存在だった
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登場人物たちの複雑で繊細な心情がもつれ絡まり不穏な雰囲気を醸し出す様子は「心は孤独な狩人」とも共通し、如何にもマッカラーズらしい世界と言える。だが、彼女の真骨頂たる内面描写を映画のなかで実践するにはどうしたって限界があるため、単なる表面上のイザコザに終始した印象は否めない。歪んだ人間関係がもたらす悲劇は題材的に見れば大変興味深く、現在絶版となっている訳本をぜひ復刊させてほしいところだ

もともとウェルドン役には希代の名優モンゴメリー・クリフトが予定されていた。類なき才能で50年代初めのアメリカ映画演劇界を牽引したモンティだが、エリザベス・テイラー宅で催されたパーティーの帰路に自動車事故を起こし顔面を負傷。整形手術によってカムバックはしたものの、以前のような細かい表情を作るのは難しく、完璧なまでの俳優像を理想としていた彼は自らへの失望で酒とドラッグに溺れてスクリーンとは遠ざかる。そんなモンティを気遣い、親友リズの企画したのが本作だった。しかし彼女の計らいも虚しく、撮影前にモンティは急逝。代役に立てられたのが彼の好敵手と呼ばれたマーロン・ブランド、という経緯がある。ただ、モンティとマーロンでは個性が異なるので、仮にモンティがウェルドンに扮していたらやや趣が変わっていたかもしれない

それにしてもこの邦題はあまりに酷い。原題をほぼ直訳した「黄金の眼に映るもの」はまだ理解出来るが、まるで陳腐なブルーフィルムの如き「禁じられた情事の森」のタイトルからは一片の翻訳センスも感じられない。これには「アイ・ラヴ・ユー」を「月が綺麗ですね」と表現した漱石先生も草葉の陰で「Why?なぜに?」と困惑しているのではなかろうか

(2023-64)
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