あんじょーら

パリ・オペラ座のすべてのあんじょーらのレビュー・感想・評価

パリ・オペラ座のすべて(2009年製作の映画)
4.2
ドキュメンタリー監督として有名なワイズマン監督作品で、しかもバレエ関係の映画、観てきました。

ワイズマン監督の作品はこれで3本目なのですが、相変わらず鋭すぎる観察者です。これぞまさにドキュメンタリーとしか言いようの無い、全てをあからさまにスクリーンに映し出してしまいます。

手法はいつもと同じように対象である「パリ・オペラ座」をとことん、隅々まで、手を加えず、余すところ無く、音と映像に収めています。素材(パリ・オペラ座)を厳選して届ける、しかし料理(判断)するのは受け手だ、というくらいの物事をそぎ落とした表現方法です。そして、だからこそ、とてつもなく重く苦しく、そして知りえなかった事実さえ、さらに裸の状態で知ることが出来るのです。観客側に考えさせることを迫る、そんな手法だと思いますし、観る方にも気合が入ります。

余談
ところで映画に娯楽を期待している方もいらっしゃいますでしょうし、私も娯楽だとも思いますが、映画イコール娯楽ではないと思っています。時々こういう刺激が欲しくもなります。しかし知らずに観に来た方々にとっては結構辛かったみたいです、なにしろ160分ですし。それでも、明らかにバレエファンとおぼしき方々と、ワイズマンファンとおぼしき方々のギャップが妙に面白かったです、自分を棚に上げて、ですが(私がどちらに見えたかは想像したくないので考えません)。
余談終了

またまた素人な考えではありますが、バレエ芸術というものは生ものですし、そして恐ろしいくらいに身体を鍛錬し続け、しかも食事にもすさまじい制限があり、なおかつ常に献身を求められる、ベジャール(最近亡くなった振付家で、アニキ)の言うところの修道女とボクサーの両方を必要とする、その身を捧げる、いやその身の全てを捧げる覚悟が必要で(もちろんトップクラスのお話しですが)あるわけで、だからこそ現実離れした舞台の世界を構築できるのだと思います。その世界の裏側を見せる、というのはある意味知らない方が良かった世界を垣間見ることになるのではないか?と思うのです。

舞台の世界を観客として見ていれば、もちろんダンサーの息遣いを感じることはありません、流れる汗も、それほど気に止まりません。煌びやかな衣装と、輝く照明と、音響効果を伴う音楽が手伝って作る美しい世界です。しかし、実際には涼しい笑顔を見せているダンサーは、とてもキツくてツライ身体の酷使をしてギリギリの表現しているのです。それを知った上で舞台を純粋に楽しむことは、なかなか難しく、そして1度知ってしまうと忘れることも難しいです。

そんな舞台芸術の世界のトップ、それもパリ・オペラ座のダンサーたちですから、その鍛錬も普通ではありません。エトワールのそれぞれ(個人的にはアニエス・ルテステュとニコラ・ルリッシュが好み)の個性がまた違っていて面白かったですし、指導する方々の方法もなんだか普通な言葉の使い方だったところは面白かったです。

淡々と進むリハーサル、そこでのレッスンの繰り返し、指導、そしてゲネプロを経ての舞台という完成品への行程が詳しく映し出されます。加工なしで。その過程を知った上での完成品を見ることと、普通の観客との違いについて受け手に強烈に考えさせられる、そんな映画でした。

知らなかった振付家のマック・エッツの作品「ベルナルダの家」は是非全編を見てみたいです。

バレエに興味ある方に、ワイズマンのファンに、オススメ致します。