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大地のうたのnotitleのレビュー・感想・評価

大地のうた(1955年製作の映画)
3.0
インド映画の監督といえばサタジット・レイしか私は知らない。
それも映画史の勉強の一環として知ったようなもので、この監督の本質とか作家性というものは全く存じ上げない。

実際に観てみると、まず、この監督のカメラ演出の巧みさに驚く。
ズームアップとズームバックの使い方がとても上手い。
台詞の声が消えて音楽や環境音のみになるシーンがいくつかあって、ちょっとしたカメラの動きで登場人物の感情や状況を説明できている。すでに観客が知っていることを省略する際にも、台詞を無くして人物の表情にズームアップすることで表現するのもとても手際が良い。
チルト撮影もよく使っている。モノを映したカメラがぐっと上がると父の姿であったり、という具合に。

展開ははっきりと言えば鈍重。ストーリーも貧困の中に生きる家族の物語であるから、いつまでこんな辛い場面が続くのかと暗い気持ちになる。
その一方で、雨や森、蓮の池やススキなど自然を映したカメラはやはり素晴らしい。白黒フィルムという差はあれど、NHKの自然番組のカメラのように自然の美しさでしっかり観客の目を惹きつけられている。

鈍重で退屈で残酷にも見える世界を美しく映してじっくりと眺める。これをインド的と言うのなら、そうなのかもしれない。私にはわからない。

ところで、黒澤明が「レイの映画を見た事がないとは、この世で太陽や月を見た事がないに等しい」とか言うコメントを残したらしいが、言い過ぎである。
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