サド和尚

激突!のサド和尚のレビュー・感想・評価

激突!(1971年製作の映画)
4.6
照りつける太陽の元、赤い塗装だけがなかなかに目立つプリムス・ヴァリアント。セールスマンのデイヴィッドの乗ったその車は、カリフォルニアでの商談に向かうために、フリーウェイをひたすら走っていた。
途中、随分と排気が酷く錆だらけのピータービルト281の後ろに着いてしまう。ゆっくり走行な上に、もうもうと排気ガスを垂れ流すトレーラー。牽引するタンクには、これがみよしに「FLAMMABLE(可燃物)」の文字。
何しろ排気ガスが煙たくてかなわんと思ったのか、デイヴッドはさっさとトレーラーを追い越す。だがそれも束の間、その直後今度はトレーラーが凄まじい勢いでデイヴッドの車を追い越した。驚くデイヴッド。しかもトレーラーはそのまま走り去らず、再び速度を緩め、デイヴッドの前をゆっくり走り始めたのだ。
訳のわからないトレーラーの動きにトサカにきたデイヴッド。先ほどよりもスピードを上げ、一気にトレーラー追い越した。今度はスピードを緩めない。何かを抗議する様に響くクラクションを背に受けつつトレーラーを置き去りにしたデイヴッド。一時の他愛もない勝利に喜び意気揚々とフリーウェイを行く。しかし…

都市間を結ぶ、長大で人気の無いフリーウェイを舞台としたカーチェイスが9割映画。
一見子綺麗ですがラジエーターパイプに一抹の不安がある普通の乗用車が、錆だらけだがパワフルなエンジンを積んだ不気味なヘビートレーラーに、地獄の果てまで追い掛けられます。
まるで鈍色の怪物猫に付け狙われるチビネズミの如し。猛追され、時に攻撃されたかと思えば、手を止め姿が見えなくなったかと思えば行き先に待ち構えている。何やら非常にタチの悪いトムとジェリーの様です。
しかし、原題がCHACEやRUNAWAYでもなく『DUEL』なのが、この映画の奥深いところ。
後半、横になった車体同士での睨み合いは、まさに宿命の決闘の到来を知らしめる西部劇的構図。広大過ぎる空の下、アスファルトの両脇に広がる果ての見えない荒野が、逃れられない対決を予感させます。
邦題の『激突!』も、色んな事を暗示しているようで、名付けた方の鋭いセンスを感じます。

パルプフィクションめいた小話を、これほどに緊張感溢れるサスペンスに仕上げ立ててしまった若き頃のスピルバーグ監督の手腕に脱帽です。
映画とはお話が全てではないと、改めて気付かされる名作と言っても構わないでしょう。
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