Jeffrey

卑弥呼のJeffreyのレビュー・感想・評価

卑弥呼(1974年製作の映画)
3.5
「卑弥呼」

本作は第二十七回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品された昭和四十九年に篠田正浩がATGで監督した傑作で、この度DVDにて再鑑賞したが素晴らしい。奥さんである岩下志麻を卑弥呼にしている。二人は今も御健全で九十歳の監督と八十歳の女優である。もう引退をしていると思うが。このアートシアターギルド時代を生き抜いてきた監督や役者たちで夫婦で今も生きているのは吉田喜重と岡本茉莉子くらいだろうか…。本作の音楽は私の大好きな武満徹が担当している。若き日の草刈正雄は言わずと知れたハンサム青年だった。古墳と言えば大阪、大阪と言えば古墳も一つの観光スポットになっていると思う。大阪生まれの方はきっと小学校の時の遠足で古墳を見に行っていることだろう。

しかしながら飛行機に乗って上から眺めない限り古墳の魅力が伝わらないと思う。あまりにたくさんの古墳が土地の上にあることに感動するのはやはり真上から見た時だ。その時の感動と不思議な気持ちが、古代の時間や、そこに生きていた人々や、その中で祭り事をやらねばならなかった人について、色々と考えさせられるだろう。この古墳を篠田監督は目一杯映画に映していた。この風景がすごく印象的だったのだ。そもそも卑弥呼は誰なのか、学生時代から内向的な性格で、外でスポーツをやるよりかは図書館で書籍を読み漁るのが好きだった自分にとっては、学校の図書室で古事記や日本書紀を読んだことを思い出す。国史と言われた日本歴史について、小学校から高等学校まで課目があり、万世一系の天皇を中心に、いわゆる二六〇〇年間の善玉悪玉の人物の年表などを見るのが非常に面白かった。

その中でも古事記と日本書紀にはユーモラスな部分がある。今三十手前の自分が、天皇の国史(竹田恒靖著者)日本国紀(百田尚紀著者)などを見てさらに深いところまで知識が足している所に喜びを感じている。なので天照大神、建速須佐之男命(タケハヤスサノオノミコト)などを知っていると本作に出てくる卑弥呼とタケヒコの恋がそれらの関係に似ていると感じるのだ。それらを熟読していない方でも日本神話の冒頭に出てくるイザナギ、イザナミのミコト、いわゆる国づくりをした二人、この恋人がカイで海をかき回し、島を見つけ、そこに上陸してなりなりてなり余れる所をなりなりなり合わざる所に刺しこんで、何度か失敗しながらやっと日本国を生み出したと言うのが有名な話である。その後死んだ妻イザナミを、黄泉の国に追いかけて行くイザナギの夜見ごえり愛妻物語が続く。ここで神話の話をしたら止まらなくなるし、かなりの文字数になるため割愛するが、その他に有名な話だとアマテラスが怒って天の岩戸がくれ…と言う話も有名だ。


篠田正浩監督は、東アジアの考古学に夢中になっている感じがする。近松の心中ものから紡ぎ出されたロマンティシズムが、やがては呪術的世界につながっていくのもその一つかもしれない。日本のシャーマニズムとか天皇制といったものに興味があるのかもわからない。篠田と言えば岐阜市に生まれ、電気工学の機械を作る工場を経営している父を持ち、女三人男三人の六人姉弟の次男であることは有名だ。アートシアターギルドで彼が作ったのは近松門左衛門原作の「心中天網島」と本作の二作品だ。その間にも「沈黙」や「化石の森」などをとっている。そう見ると、彼は幅広いものを監督している作家だなと感じた。本作は冒頭から非常に引き込まれる。妖艶な女が独りよがりで何かをしているファースト・ショットで始まる。その前に小動物のカット割が含まれる。パゾリーニの「豚小屋」を彷仏とさせるような渇いた地を歩く男のロングショットも非常に良い。
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